沼田の「沼須人形芝居あけぼの座」 未来遺産(日本ユネスコ)に登録

江戸末期の郷土芸能 「百年先までつなげたい」

沼田市の重要無形民俗文化財である人形芝居を保存、継承し続けている同市沼須(ぬます)町の市民団体「沼須人形芝居あけぼの座」(金井竹徳座長)が今春、「プロジェクト未来遺産2022」(日本ユネスコ協会連盟)に県内で初めて登録された。来月13日には市内で未来遺産登録の伝達式が行われる。4月3日には、地元の砥石神社で奉納公演を開催。沼須人形芝居の由来や魅力、あけぼの座の活動について取材した。  (上原 道子)

4月3日、砥石神社春季例大祭での奉納公演を終えた沼須人形芝居あけぼの座の座員たち。前列中央が金井座長

1975年に保存会発足 市の重要民俗文化財にも

沼須人形芝居は、沼須地域に伝わる郷土芸能で、人形師が手に人形を取り付け、語りと三味線に合わせて演じる人形浄瑠璃。1体の人形につき1人の人形師が担当するのが特徴だ。江戸時代末期の安政年間(1854~59)に、阿波(現・徳島県)の旅芸人が巡業の途中で残していった人形や道具などを使って地元ゆかりの若者ら十人ほどで上演したのが始まりとの説がある。中断と復興を重ね、1975(昭和50)年には保存会と同時にあけぼの座が発足。翌年3月には人形の頭及び付属品が沼田市の重要有形民俗文化財に、95年には「沼須人形芝居」が市の重要無形民俗文化財に指定された。

人形師は、左手の親指と小指に人形の手を取り付け、頭部の支柱を人差し指と中指で挟んで操作する。右手で人形が持つ道具を添えたり、着物の裾さばきをしたりする。座員の堤優衣さん(10=沼田東小5年)は「頭が重く操作が難しい。頭が下がると落ち込んでいるように見えてしまうので気を付けています」と話す。

また、人形の首や衣装は代々継承されてきたものを使用するが、傷みやほころびが生じた着物は座員が繕ったり新たに手作りしている。

子どもから大人まで一丸 後継者育成&地域活性に貢献

あけぼの座は現在、小学生から80代の35人が在籍。人形、語り、三味線など全ての役割を座員が分担。砥石神社春季例大祭での奉納公演など1年に5、6回ほど上演するほか、市内の学校と連携し体験会を行うなど後継者の養成にも力を注ぐ。若手座員の中には、部活動と両立させたり、県外へ進学してもわざわざ帰郷し参加する学生のほか、社会人になっても継続する人が少なくない。小学生から始め、現在は埼玉に住む堀越美羽さん(21=大学4年)のは続ける理由について、「座長はユーモアがあり、座員同士も仲が良く、雰囲気のよい中で楽しく活動できる。学業優先で無理なく参加できているのも大きい」と話す。

また、演目は伝統的な台本に加え、地元由来の伝説を題材にした新作を導入することで、地域に親しまれる工夫も。伝統文化を復活させ、多様な世代が一丸となって継承、後継者育成、地域活性化などに努めていることが評価され今春、「未来遺産」登録が決定した。保存会会長の角田泰夫さん(73)は、「登録を励みに若手がさらに盛り上げてくれることを期待している」と話した。

満開の桜のもとで記念公演  5月の登録伝達式でも

「とざい、とーざーい」。満開の桜が見守る今月3日、座員による口上が会場に響き渡り、奉納公演の幕が開いた。

文楽(人形浄瑠璃)の定番演目で生き別れになった母娘の情愛を描く「傾城(けいせい)阿波の鳴門」、沼田城主・真田信之の妻の生涯を主題にした、金井座長(76)によるオリジナル作品「小松姫物語」など4演目を披露。小学2年から始めた高野智花さん(12=沼田中1年)は、「この伝統文化を多くの人に伝え、さらに下の世代にも教えられるよう技術を磨いていきたい」と力強く語った。

代々、沼須人形芝居に携わってきたという金井座長は、「小学校での体験がきっかけで入座し、長く続けてくれる子も多いので、座員は皆、家族のよう。先代から受け継いだ伝統芸能というたすきを、若い世代にもつなぎ、100年先までしっかりと残していきたいですね」と話す。

「未来遺産」の登録伝達式が5月13日午後3時から沼田のホテル・べラヴィータで行われる。オープニングであけぼの座が公演。申込不要。観覧無料。問い合わせは金井さん( 090-2658-7121 )へ。

「傾城阿波の鳴門」を演じる若手座員
左手親指と小指に手を取り付け、頭部を人差し指と中指ではさむ
人形芝居に欠かせない三味線(手前)と語り
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