奇跡の復活 畑もジャズ喫茶も 後継者現れる!

若い後継者が引継ぎ、つなぐことで、元気に事業を始めた県内の新しい店舗を紹介する。 (谷 桂)

畑では、おばあちゃんがビジネスパートナー
やさい直売と小さなcafehana(桐生)

木村理絵さん㊧と祖母の木村チカ子さん。畑では、決断力抜群のチカ子さんの力を借りるが、時には父親の金雄さんも力仕事を手伝う。建築士の金雄さんが設計した店舗の前で

昨年9月、桐生市相生町にナチュラルな造りのかわいい店舗「やさい直売と小さなcafe hana」がオープンした。店内には、ホウレンソウやカブ、ケール、スイスチャードなど、農薬や化学肥料をできるだけ使わず、目の前の畑で採れたばかりの旬な野菜が並ぶ。加えて、テイクアウトの手作りドリンクや焼菓子も仲間入り。

畑で野菜を育てて、店を経営するのは、木村理絵さん(39)。10年以上病院の管理栄養士として、デスクワーク中心の勤務を経て「もっと違うことがやりたい」と自身の可能性を模索して退職。その後、オーストラリアへの語学留学やカフェ勤務などを経験したが、2020年コロナ禍で実家に戻る。

何かの「店」を始めたかった木村さんは「花でも仕入れて売ろうかな」と考えていたが、建築士の父親、金雄さん(73)に「うちの野菜を売ったらどうか」と提案され、20年7月から畑に立てたパラソルの下で、祖母のチカ子さん(95)が作る野菜を販売した。

戦後、大変な思いで開墾した畑を、70年間耕し続けている祖母チカ子さんは、孫の木村さんに農業のことを全面的に教える。「理絵がクワを持つとは思わなかった。一緒にできて、本当に幸せです」と喜んでいる。「カブの種をもっと早くまこう」「次はこうやったら上手くいくかもしれないよ」と二人は、相談しながら計画を立て、畑仕事を進める。チカ子さんがサポートするというよりは、対等な立場のビジネスパートナーだ。SNSを参考にする木村さんと、テレビを見ながら発想を得るチカ子さん。お互いのやり方を尊重し合っている。

家族に見守られ、パラソルの下で3年間、野菜販売した後、ついに「hana」が始まった。「もう少し大きい店を持ちたい」「家庭でも野菜のスープを楽しめるようにパウチして販売したい」と木村さんは次のステップを考えている。大きな夢のようだが、案外近くにあるかもしれない。

完熟させたオーガニックバナナを使用したバナナチョコマフィン(430円)
6畳の小さなカフェは、旬の新鮮野菜や手作りドリンクなどが評判。

■桐生市相生町5-703-3
Instagram : @yasai_chokubai

LINE情報はこのQRから

絶メシからの復活
世代を超えたジャズ・アート好きに来てほしい
ジャズ喫茶「蔵人」(高崎)

店主の大竹潔さん㊧と前店主の根岸蔵人さん。大竹さんが持っているジョン・コルトレーンのアルバム「Coltrane’s Sound」に「セントラル・パーク・ウエスト」が収録されている

高崎市倉賀野にあるジャズ喫茶「蔵人」。高崎市グルメサイト「絶メシリスト」にも掲載され、ジャズファンに惜しまれて一度閉店した名店が、ついに2024年1月、復活した。蔵をリノベーションした店内は、ステンドグラスから光が差し込み、様々なジャズのナンバーが流れ、世代を超えたジャズ好きが再び集まり始めている。
前店主の根岸蔵人さん(78)は、若いころ東京で文化人と交流したことでジャズに目覚め、群馬に移っても美容室経営の傍ら、ジャズレコード3000枚以上や棟方志功の版画、柳宗悦の民芸などをコレクション。当初はスタッフが文化にふれる憩いの場所だったが、次第にジャズ喫茶として海外アーティストのライブも行うなど、全国からジャズファンが集まる聖地になっていった。店は15年以上続いたが、後継者がいないことやコロナ禍により2019年2月閉店した。

その後、ジャズ喫茶をやりたいと10人以上が後継ぎを申し出たが、「無理だろう」と根岸さんに断られた。大竹潔さん(41=埼玉県上尾市)もその一人。

だが、大竹さんは、子どもの絵本を図書館に返却しようと公園を歩いていたとき、20世紀のサックス奏者ジョン・コルトレーンの曲「セントラル・パーク・ウエスト」が頭の中に響いて、ジャズに心が救われた経験を経て「やっぱり、やりたい。この空間は本当にもったいない」と再度、思いをぶつけた。「一番、ジャズに対する熱意があった」と根岸さんは譲ることを決断した。

二人は、ジャズを聴きたいお客さんと音楽の話をしたいお客さんを共に満足させるアイデアを考えている。協力して新たなジャズ喫茶を未来につなごうとしているのだ。「素晴らしい場所で、ジャズをもう一度多くの皆さんに聴いてほしい。この店は、受け継がれていくべきものなんです」と大竹さんは生き生きと新店主を務めている。

コーヒー(750円~、クッキー付き)、チーズケーキ(350円)など。25歳以下割引あり。高校生以下はドリンク500円、リクエスト可。

大きなスピーカーやレコード、アートが溢れている店内
蔵人ブレンドはクッキー付きで750円。以前と同じコーヒーの味にした

■高崎市倉賀野町1602-1
電話:090-5840-7739
営業日:土日限定、午後1~8時
X:群馬 高崎 ジャズ喫茶「蔵人」:@aai_captain

掲載内容のコピーはできません。