日ごとに暖かくなり、各地から桜便りが聞こえてきます。収束を見通せぬコロナ禍の中、県は今春もお花見は宴会を控えるよう呼びかけています。群馬で迎える初めての春。心待ちにしていた花々を一人静かにめでることにします。
最初の緊急事態宣言が出た昨春、勤務していた東京の街は異様なまでに静まりかえっていました。通勤電車はガラガラ。どの店でもマスクの在庫ばかりが底を突き、朝から晩まで走り回っても1枚も入手できずに途方に暮れました。未曽有の事態を前に、厳しい取材制約もあって日々の紙面作りも手探り。心身ともに疲れ果てて朝刊編集を終え、ようやく帰宅した明け方、朝日を浴びて揺れる近所の桜を見上げて「いつまでこんな異常事態が続くのだろう」とため息をつきました。
あれから1年。あまりにも多くの尊い命が失われました。なお変異種やリバウンドにおびえ、宴席も旅行も自粛を強いられる非日常が続いていることに、ため息また一つ。春なのに……。ただ、緊張感が薄れてしまっているのも事実。「うつらない、うつさない」と、なけなしの布マスクを入念に洗って使い回していた1年前の覚悟を思い出さなくては。
群馬版の要だった前橋総局のデスクや記者が新天地へ旅立ち、高崎支局長が勇退します。送別会さえ開けない現状に歯がゆいばかり。ただ、去りゆく仲間たちにとって群馬は大事な「故郷」の一つのはず。禍が過ぎ去れば「帰省」してくれるでしょう。心から笑い合える宴席は、その時の楽しみに――。
(朝日新聞社前橋総局長 本田 直人)