あなたの職業は何ですか?
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造形作家 Mac Nakataさん(63)
【スチームパンクの世界的造形作家に】
皆さん、「スチームパンク」を知っていますか。アートやファッションに、歯車や時計の文字盤を取り入れているSFのジャンルです。空想の作品にインパクトがあるので、作品を持って外出すると、大勢の人に囲まれます。「これなんですか?」と声を掛けられたり、サインを求められたり。蒸気が出てくる小道具や財布、飯ごうややかんを使ったバッグなど、まるで、映画の主人公が持っていそうな近未来、あるいは逆に懐かしさを感じるSF的な世界観を表現した「未来懐古的造形物」とでもいうべきものです。でも、製作には、廃材やジャンク品を使用。どこかで見つけたカーテンレールやノズルなどをワイヤーや糸で取り付けて面白いと思ったものを、造形をしています。
2013年に行われたニューヨーク現代アート展覧会では、初挑戦にも関わらず、作品「紙だのみ」と「他力本願寺」の2作品が入選しました。審査員はニューヨーク近代美術館MoMAのキュレーターでした。うれしかったですね。「紙だのみ」は、トイレットペーパーがびよ〜んとせりあがるように設計されています(笑)。「他力本願寺」では、ハーレー車の部品が付いているのに、全く動かないところがユニークだったようです。17年には、英国王立美術家協会員審査の展覧会で招待作家として出品。同年、榛東村の耳飾り館にも展示していただきました。
【都会でなく群馬暮らし】
神奈川県川崎市出身です。20歳で父が他界、21歳で今度は母が亡くなり、とにかく貧乏。奨学金で大学を卒業し、東急グループのサラリーマンになりました。その後、店舗デザインの会社を立ち上げて独立。収入は低くなっても東京より豊かな生活ができると、34歳で妻の実家のある群馬に来ました。仕事は順調で約20事業を展開しました。土地や不動産に投資して経済的基盤を作り、自由なことができるように準備したのです。セミリタイアしたあとは、「これからは自分が好きなことをやろう、面白い物を作ろう」と「スチームパンクアート」の世界にのめりこみました。
【不思議と応援者が出てくる】
「スチームパンク」の他には、365日着物生活をしています。自宅で囲炉裏を楽しみ、時々、日本一周の旅に出かけます。実は、日本二周して、4万キロ18か月の旅をしました。高速道路や4車線道路は通らず、全て旧道を行く旅です。土地の文化を味わえて面白いですね。
多くの人は、自分があこがれる人を応援することで、夢を見ます。でも、自分を主体にして、思うように好きに生きると、逆に応援者が出てくるものです。私の場合も、アメリカから会いに来てくれた人もいましたし、「作品に使ってください」とか、「炭をあげます」と色々な物を提供してくれるファンもできました。「スチームパンク」は、めずらしい分野ですが、世界を見渡せば、関心を示してくれる人も多い。群馬には少ないですがね!YouTubeは、500万回、TikTok1000万回などSNSの視聴者も増加しています。
【着物フリースタイルを若者と広げる】
最近では、着物の分野も楽しんでいます。着物研究家で大学教授のイギリス人、シーラクリフさんとのコラボも度々ありました。シーラさんは、外国人の好む着物の企画・プロデュースをしていて、着物自由形、和装の第一人者です。シーラさんが私を取材してくれて、一昨年は、海外のファッション誌にも紹介されました。また、前橋市川原町の雑貨店「アリスブランシュ」で、作品が常設されている「スチームパンクコーナー」が1年半前に誕生。「着物フリースタイル」と共に、新しい文化を若者と一緒になって広げています。
【ピンチはチャンス】
人生を振り返ると、縁や運も大事ですが、「まかぬ種は生えぬ」ということがいえます。「昔の出会いが、今頃結実した」ということが最近激増しています。
コロナ禍で大変ですが、今、種をまけば良いのでは。変革する時はチャンスです。世の中が大きく変わる節目は、衰退するものと、伸びていくものがはっきりと分かれていく。新しいことにもチャレンジしてみませんか。ピンチはチャンスです。私も面白くて好きなことに、全力で取り組みます。 (聞き手 谷 桂)
■アリスブランシュ
前橋市川原町1丁目29−1 TEL. 027-230-9514