ブラッドピットがラスベガスを舞台に大活躍する映画「オーシャンズ11」では、ジュリアロバーツ扮する美術館館長がキーパーソンとなっている。それは当時実在した人物で、私の数少ないよき理解者の一人だった。
その後、彼女が就任した先はラスベガス美術館。町の西の最果ての、大きな図書館内にあった。そんな場所でも、建築家フランク・ゲーリーやハリウッド俳優 のマーティン・マルが展覧会を開催したり、デニス・ホッパーやスティーブ・マーチンといった映画界の大御所がふらりと立ち寄るような、いわば隠れた名所だった。かくいう私も2007年に個展をした事がある。
あれから12年。あの広々とした空間は、今では美術館とは呼ばれず、政府が運営するギャラリースペースとなっている。しかし壁や照明は以前と何も変わらず、 展覧会を開催するのには最高だ。町の端だった土地も、今では随分と賑やかになった。
昨年の或る日、現館長から連絡があり、「久しぶりに展覧会はどうでしょう?」とのオファーがあった。数えれば今年でラスベガス在住20年になり、知らぬ間にべガス美術界の重鎮になってしまった。
そんな区切りに記念企画はいかが?と提案され、自分の家に飾られ続けて塵が積もった作品、梱包されたままアトリエに放置されていたもの、傷が付いて修復を待っている作品をかき集め、2001年デビュー当初から現在までの個人コレクションを展示する事となった。
私が作品を選び、展示方法も決め、展覧会のタイトルも考える。非常に自由のある展覧会。学生だった頃を想い出す。18年も前に描いた作品などは、青々として、ちょっと気恥ずかしい感覚さえ覚えた。
そうしてスタッフによる設置作業も順調にすすみ、メディアのインタビューなども受け、3月1日に展覧会がスタートした。地元紙には「今週の大イベント」と銘打たれ、その御陰か、オープニングレセプションは通常の3倍以上の人が訪れた。駐車場は満車御礼。入るのを諦めた人も多かったという。
大抵のお客さんは地元の一般市民。会期は今月27日までだが連日、老若男女、人種も超えて実に様々な人々が来てくれている。
私はというと、スタートから最後まで、知らない人たちにずっと話しかけられ続け、喋り続け、写真を撮られ続け、作品をじっくり見る事も、親しい友人との会話も皆無であった。
自分ではあっという間の20年だったけれど、少しは成長したものだ、と実感できたひとときでもあった。