気の張りつめた強靭な空間「能舞台」を体感して
昨年9月の開館以来、世界的ミュージシャンによるスタンディングライブで時には1000人近くの来場者を沸かせた空間が、いまひっそりと静謐に包まれています。ほのかに漂うヒノキの清新な香りに自然と気持ちが引き締まります。
高崎芸術劇場の「スタジオシアター」は、黒を基調としたスタイリッシュな趣のホールで、ロックコンサートから舞踊、演劇まで幅広い公演に対応できます。このスタジオシアターに、この度、専用の能舞台が完成しました。明日15日に二十六世観世宗家の観世清和氏、狂言師の野村萬斎氏らを迎えて翁、千歳、三番叟の3人の歌舞からなる祝言能「翁」でお披露目公演を行います。お陰様でチケットは完売しました。
私は、能舞台の心地よい緊張感に魅せられた一人。はじめて能舞台を訪れた時の驚きを鮮明に記憶しています。
正方形の舞台が客席に張り出し、その舞台には長い廊下のような橋掛かりがあり、目を舞台の上に転じると、4本の柱に支えられた屋根がある。それらが幕で隠されることもなく開放されている様は荘厳です。
また、舞台に向かって左側に「脇正面」と呼ばれる真横から舞台を望む座席があるのも歌舞伎やオペラにはない能ならではのもの。立体的な視点で舞の動きを受け止められ、コーラスにあたる地謡の斉唱との対面は他の舞台では得られないドラマティックな迫力を体感できます。
当劇場の能舞台は上演時のみに設営する仮設式のものですが、本格的な仕様で、これまでできなかった演目の上演も可能にします。
例えば、安珍清姫伝説が題材で人形浄瑠璃や歌舞伎の原典にもなっている大曲「道成寺」。舞台天井に吊るした巨大な鐘が、主役の女を飲み込むようにズドンと落とされる「鐘入り」の場面は圧巻です。
能以外の催しも考えていますが、この「気」の張り詰めた強靭な空間は相当手ごわい。感性を試されるようで、安直な企画ではその圧に耐えられないのです。ただ、何より新たに能舞台を得たことで、劇場が提供できるコトの幅がいっそう膨らむでしょう。
明後日16日、高崎芸術劇場の施設見学会を開きます。当日は、スタジオシアターに仮設された能舞台も合わせて公開します。
いかめしく構える舞台が放つ清爽な緊張感をこの機会にぜひ味わってください。