日本の旧石器時代を証明した 美しき石ヤリ
岩宿遺跡は、日本列島における人類の歴史が1万年以上昔の旧石器時代の段階に遡ることが初めて明らかにされた場所です。岩宿遺跡の発見者は、市井の考古学研究者相澤忠洋さん(1926~89年)。その生い立ちから、岩宿遺跡を発見し発掘調査の成功に至るエピソードは、多くの人々の感銘を集めています。
その相澤さんが、日本の旧石器時代(岩宿時代)の存在を確信したのは、今回紹介する石ヤリの発見によってといわれています。相澤さんが発見した石ヤリは、学術的には「槍先形尖頭器(やりさきがたせんとうき)」と呼ばれています。透明度の高い黒曜石を打ち欠きながら、木の葉のような形に仕上げていますが、よく見ると先端から右肩にかけて細長く、まるで円ノミで彫刻した溝のような跡があることがわかります。これは専門家から「樋状剥離(ひじょうはくり)」と呼ばれているもので、この石器を作った人が石の性格を知り尽くし、そのうえ高い技術力を持っていたことにほかならないことを示しています。多くの実験考古学者がこの石ヤリをまねた石器を作ろうとしても、左右対称で形まで美しいものを作ることは至難の業なのです。
岩宿博物館では、相澤忠洋記念館のご厚意によって、相澤さんに関する資料を一括でお借りしています。この石ヤリのほか、相澤さんが調査した権現山(伊勢崎)・不二山(桐生)など代表的な遺跡の石器のほか、調査に使った自転車やオートバイを常設展示室において展示させていただいています。相澤さんゆかりの品々をご覧になり、岩宿遺跡の魅力や相澤さんの人となりを感じていただければと思います。