高崎市吉井郷土資料館 [ネジリ型火打金](Vol.21)

火打鍛冶職人の「ぬきんだ技術」

江戸時代後期、中野屋孫三郎家で製造された火打金。見事なネジリが入っている。左から「上 吉 井」と鏨銘が刻まれている。

火打金(ひうちがね)とは、石との摩擦で生ずる火花によって火を起す道具です。「古事記」などの古い文献や各地の発掘出土資料の中に火打金が見られ、古来より人々の生活必需品でした。

旧吉井町の郷土かるた「吉井かるた」の中に「ぬきんだ技術の火打金」というのがあります。この「ぬきんだ(抜きん出た)技術」をもった人に、江戸時代の火打鍛冶職人・中野屋孫三郎(生年不詳~1773年)がいました。現在、吉井中央中学の北に一族の墓石が数点並んでいます(市指定史跡)。

この中野屋が製造したうちの一番のヒット商品が、三角形をしたネジリ型火打金です。底辺約5㌢、高さ約2・5㌢、重さ約10㌘。手のひらに乗るサイズで軽いため、携帯に便利です。
特徴は、名前の通り「ネジリ」があるところ。火打鍛冶職人が、鉄が真っ赤な状態で左右の把手の部分にネジリを加え、真ん中で結びつける。この作業を鉄が冷める前の数秒間に行うのです。全て手作りですので、一個一個のネジリが微妙に異なり、オンリーワンの美術工芸品としての価値もあります。

さらに、中野屋の商品は火打金にとっての命である「火花の出」が非常に良かったので、江戸時代後期以降、「ぬきんだ技術」として善光寺参りの旅人らに好評を博しました。

このネジリ型火打金は、中野屋孫三郎家の「のれん」や看板にもデザインされています。また、当資料館の1階展示室には、この「のれん」や看板とともにネジリ型火打金を展示。ミュージアムグッズとして販売も行っています。火打金による火おこし体験もできますので、興味のある方は是非一度、吉井郷土資料館へお越しください。

学芸員 中嶋 義明さん

なかじま・よしあき/高崎市吉井町出身。佛教大学大学院修士課程(通信)修了。吉井町郷土資料館勤務(学芸員)、高崎市との合併により、高崎市文化財保護課吉井郷土資料館、高崎市公園緑地課を経て、現職。

きてみて
高崎市吉井郷土資料館/高崎市吉井町吉井285)/027-387-5235/午前9時半~午後4時半/休館日:月曜/入館無料。第47回企画展「吉井信照の生涯」を今月30日~12月12日に開催

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