2022年は寅年 ベンガルタイガーを求めて

清流につかって、午後の日差しを浴びる野生のベンガルタイガー

1984年4月7日。だいぶ昔のことになるが、この日初めて僕はインドの地を踏んだ。目的は野生のベンガルタイガーを撮影することだった。そして、野生のトラと出会えたのはラジャスタン州にある、ランタンボール国立公園。2日目の早朝に、朝日を受けて輝く孤高の王者に対面でき、長年温めていた「トラを写す」という想いが初めて実現できたのであった。

その日から連日トラに出会うことが出来、ここに通えばトラの写真集を出版できるという確信を得た僕は、その後、2カ月、3カ月の長期取材を試みて、念願の写真集を出版。そして86年の寅年に、100坪の会場で写真展を開催することが出来た。

トラへの挑戦は、この時で終わったわけではない。その後もインドへは通い続け合計10回を数えたのだが、その中でも忘れがたい出会いが何度もある。写真の「水の中のトラ」との出会いは、たくさん写した中でも特に印象に残るものである。色々いる猫属の中でも、トラは水を好み、40℃以上になる夏の季節は好んで水に浸かる。泥水で身体を冷やす姿も見ているが、この写真は、清流につかっている姿で、午後の日差しを浴びていかにも気持ち良さそうにしている雄のトラ。ジープの上で、ドライバーと2人っきりで目撃したのである。十分に身体を冷やしたあとゆっくりと立ち上がり、ジャングルの中に姿を消したが、20年間毎日のようにジャングルに入っているドライバーも「この場所で、こんな雰囲気のいい姿を見たのは初めてだ」と言うぐらい貴重な出会いとなった。この映像は、絶滅に瀕しているトラに対する讃歌だといえるかもしれない。

よしの・しん

1943年生まれ。桑沢デザイン研究所リビングデザイン科卒業。写真事務所勤務後、1972年フリーランスの写真家になり、日本国内のみならず、世界の野生動物と自然景観を被写体として取材し続けている。主な写真集に「ロッキーの野生」「タイガーオデッセイ」「アラスカの詩」「アクアオデッセイ」、写文集に「ネイチャーフォト入門」「アフリカを行く」「野生のカメラ」「アナログカメラで行こう1・2」などがある。最近は、各種コンテストの審査員としても活躍。(公社)日本写真家協会会員。朝日フォトコン特別審査員

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