前橋にもサクラ前線がやってきた。車を運転していると、あちこちにポンポンと咲いているサクラの木が目に入り、ついつい目で追ってしまう。これはちゃんとお花見をせねばと、2日の土曜日、ランニングのコースにサクラの名所・前橋公園を組み込んで出発した。
県庁前あたりから、車の渋滞の列が続き、わくわくしながらピッチを上げた。園内の高台に立って、思わず声を上げてしまった。枝いっぱいに花を咲かせたサクラがピンク色の雲のように眼下に広がる。池の緑と真っ青な空、そして遠くに見える雪山。これが前橋の春の景色なんだな、と、しばらく見入っていた。池の周りには花見客がシートを広げ、チョコバナナやお好み焼きの屋台からは、甘い匂いやしょっぱい匂いが漂ってくる。久しぶりにお花見の空気を胸いっぱいに吸った。
利根川沿いに咲くサクラも眺めながら自宅近くの寺まで戻って来たとき、目に入ったのが満開のサクラの古木だ。見事な枝ぶりを見上げ、前橋に来たばかりの昨年12月の夜も、同じ場所でこの枝を見上げたことを思い出した。
あのときは、自宅に洗濯機も届いておらず、近くのコインランドリーに向かっていた。新しい街での新しい仕事に、期待と不安を抱きながら、真っ暗な夜道を歩いていたとき、この枝を見上げ、空に広がる星のきれいさに息をのんだ。あれから4カ月。街も自分の心も、春到来を感じた一日だった。
(朝日新聞社前橋総局長 宮嶋 加菜子)