夏の猛暑が始まった頃、東京に住む友人から、前橋の実家を手放すことになったと連絡が来た。ご両親が他界したその家はしばらく空き家になっていて、彼女の姉弟も皆、結婚し県外に居を構えている。最近「前橋市空き家バンク」に登録したところだったそうで、思いの外早く売れてよかったと話す声は、少し寂しげにも聞こえた。
急きょ、残されていたテーブルを譲り受けることになり、不動産屋さんを通して鍵を預かった。友人とは小中高、予備校まで一緒に通った仲。玄関を入り廊下をすすみ懐かしいリビングに立つ。今はがらんとしたその部屋が、賑やかだった数十年前の団らんの風景を思い浮かべると、私のことを友人と同じ様にあだ名で呼んでくれていたおじさんとおばさんの声が、とても鮮明によみがえってきた。
テーブルを運び出すため、庭に出る窓を開けた。餌台に来る鳥を眺めるのが毎日の楽しみなんだよと、以前おじさんが話してくれたその庭は、青々とした草が膝のあたりまで伸びていた。車に積み終わり、もう二度と訪れることのないその家に別れを告げた。聞くと、次に入居するのは県外から移住する家族らしい。群馬の生活を楽しんでくれるといいなと思う。
(塩原亜希子)