街づくり団体・まきばプロジェクト 秋山麻紀さん
クラフト雑貨店や食のブースなどが並ぶ伊勢崎の人気屋外イベント「ラッキーフェス」や、県内飲食店を応援する県の「GTOプロジェクト」の一環としてキッチンカーでランチを販売する「県庁前キッチンベース」など、年間40件以上のイベント事業に取り組む街づくり団体「まきばプロジェクト」。代表の秋山麻紀さんに、自身の子育てや、地域の課題を解決する活動について聞いた。
震災きっかけに
街づくり団体「まきばプロジェクト」代表の秋山麻紀さんは夫の4回目の転勤に伴い2015年、家族4人で伊勢崎市に転入。「田舎と都会のちょうど真ん中。あまりにも理想的過ぎる」と、すぐに市内に家を建て定住することを決めた。同年4月には「まきば―」を立ち上げ、9月には初めてのイベント開催を実現させた。以後、地域や住民が抱える課題を解決する手段として、イベントやセミナーなどソーシャルアクションを起こしている。
立ち上げのきっかけとなったのは11年の東日本大震災だった。出身地である茨城県の実家が被災。「両親は外出中で無事でしたが、津波で何も無くなっちゃって」。ボランティア活動をしながら被災者住宅で生活再建をしていた両親の姿に影響を受けた。もともと人見知りで、高校時代は女の子同士で取り留めのない話をするのが煩わしかったという秋山さんだが、震災を機に「人のつながりっていいな」「誰かの支援を待つのではなく、自分たちの生活を自分たちで良くしたい」と考え方が変わり始めた。
「立ち上げ当時は何日も徹夜して作った分厚い企画書を市役所に持参しても相手にされず、何度も足を運びました。その甲斐あって職員の目に留まりプレゼンの機会を得て、ようやく市が応援してくれることになりました」と秋山さん。市内のグラウンドで行った初のイベント「かかあ天下マーケット」は、地元の子育ママによるによるハンドメイド店が約100店舗が出店。3000人を超える来場者でにぎわい、大成功を収めた。
良き理解者・夫と子どもが原動力
まきばプロジェクトの運営は、協力者や出店者のほかは、基本的に秋山さん一人。そして、活動に関しての一番の理解者は何と言っても夫と子どもたちだ。「主人とは茨城で知り合いましたが、自分の方から一目ぼれして、10か月後に結婚してもらいました」と笑いながらカミングアウトする。
子どもを保育園に預けながらフルタイムで働き、家事をこなす多忙な生活も、「『まきば』が趣味だったので苦にならなかった」と振り返る。立ち上げから3年間は、自分の収入を活動資金に繰り入れた。
幼少期から必ず活動に連れて行ったという中3と小5の息子は、母の背中を見て、生徒会や遠足の実行委員長を積極的に引き受けるまでに成長。「いつ誰とどこにいるのか」をスケジュールアプリに書き込み、家族と共有することも欠かさないという。
学校評議員や主任児童委員など地域の役員も務める秋山さんは「活動の原動力は『子ども』。生活して不便さを感じるときに、『何とかしなきゃ』と思うのは、子どもが大きくなったときに、その課題を残したくないという思いからなんです」と力を込める。
今後は「出来上がった街づくりの仕組みを誰でも再現できるようになればいい」と過去の成果にこだわり過ぎず、新たなプロジェクトを生み出す。
つながる場の創生
「ラッキーフェス」は、クラフト雑貨や食などがカラフルなテントの下に並ぶ屋外イベント。「実店舗を持たなくても、雇われなくても、だれでもビジネスはできる」と一般に出店を呼びかけ、出店側と購入者側との出会いの場を作る。昨年は、不登校の子どもがポップコーンを販売する試みも行った。「学校や家庭だけでなく、多様な人や社会と接点を増やし、つながる場を子どもたちに提供できた」と手ごたえを感じる。
一方、今年はコロナ禍を受け県が呼びかけたプロジェクトの一環として、県庁職員に昼食を販売する取り組み「県庁前キッチンベース」を立ち上げた。「飲食店の応援のみならず、公共空間を事業者に開放し、経済活動が行える場所へと変えていくための社会実験を兼ねます」と自信をのぞかせる。このほかにも、オートレース場や信用組合などとタッグを組んだ多様な企画を次々展開。「イベントという手段を通して、何かの課題をクリアしていく過程を見てほしい。時代ごとに、皆が抱える課題は変わる。女性も出産、子育てなどその時々で違う悩みを持つ。だからこそ視野を広げ、たくさんの人に出会って、変化と多面性のある『街』を楽しんでほしい」と呼び掛ける。「街に笑顔を生み出す場の創生」「地域が抱える課題を解決する場づくり」を目指した秋山さんの挑戦は、これからも多くの人と人とをつないでいく。 (文・写真 谷 桂)
■「ラッキーフェス」=伊勢崎市宮子町のいせさきガーデンズで11月29日、12月6、13日に開催。午前10時~午後3時