渡邉 辰吾さん×西島 雄志さん
未来の光を彫刻する
今月、前橋市と「まちづくり推進」などで政策連携協定を締結し、地元群馬を拠点に官民共創の取り組みをするほか、ロバと共生する電気設備会社ソウワ・ディライト代表取締役CEOの渡邉辰吾さん(45)。これまで数々の立体やインスタレーションを発表し、昨年からは、東吾妻町に移住。中之条ビエンナーレや京都・二条城で開催される芸術祭に参加する彫刻家の西島雄志さん(53)。二人が、光や作品、動物との共生、生態系について対談した。 (文・写真 谷 桂)
わたなべ・しんご/㈱ソウワ・ディライト代表取締役CEO 1976年8月2日生まれ、群馬県前橋市出身。大学卒業後、広告代理店勤務を経て双和電業株式会社(現・株式会社ソウワ・ディライト)に入社。2015年より現職。電気工事業を生業とする中でデンキが創り出すミライへの可能性を教育や環境分野を中心としてアート的に表現するだけでなく、群馬県及び前橋市の行政政策にも深く関与し官民共創のデザインを地域に創り出している。
にしじま・ゆうじ/彫刻家 1969年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院卒。 彫刻家として数々の立体作品、インスタレーションを発表。2011年から中之条ビエンナーレに参加。21年から東吾妻町在住。ギャラリー&カフェ「newroll」オープン。11月19日から「拝啓、うつり住みまして」(中之条町旧廣盛酒造)に出品。9月17日~10月2日まで、京都・二条城で開催される「プレBIWAKOビエンナーレ2022」に参加。10月1日には夜間特別公開。
互いに魅かれ合って
— 二人の出会いは
渡邉(以下渡) 一年前、知人に「渡邉さん、東吾妻にすごい人がいます」と聞きました。
西島(以下西) 僕の方はその彼女に「面白い人がいるから会った方がいいですよ」と言われ、説明を聞いてもどんな人か分からなくて。それなら行ってみようとなりました。
渡 うちの会社でお会いした後、今度は西島さんのギャラリーに伺いました。一緒にいる時でも西島さんは、ずっと「ネジネジ」している。つまり銅線を渦巻にして作品パーツを作っている。日常生活自体が表現になっているんだなと感じ、人間性や会話、表現のリズムにすっかり引き込まれました。
— 西島さんが彫刻を始めたのは
西 元々、作るのが好きで、高校生の時、将来、彫刻をやっていこうと決意したんです。自分の表現手段として、彫刻を選んだのです。アーティストというより彫刻家として、「宇宙的なこと」や「人とは何だろう」「自分は何者なんだろう」ということを表現しています。
様々な光の表現
— 今春、イベント「赤城SUN do」がありました
渡 3月に前橋の三夜沢赤城神社で開催しました。カナダと中継したオーロラ鑑賞やアート、音楽、食などが集まりましたが、メイン作品の1つが西島さんの「真神」だったんです。2千年もの歴史ある神社の神域に展示できる作品は、他にはありませんでした。杉の木立の中、光を放つ真神を見て、私は鳥肌が立ちました。電灯がなかった時代の日本の美の感覚を描いた谷崎潤一郎の随筆「陰翳礼讃(いんれいらいさん)」のように、暗闇でじんわり輝く西島さんの光の扱い方が好きです。一流デザイナーが作った高価で華やかな照明も目を引きますが、何気ない自然の中に存在する光も心を和ませる。どのような光が好きかは、その人の考え方によって違います。
西 彫刻にとって、光はすごく重要な要素です。例えば、鳳凰をモチーフにした吊るす作品や馬の作品では、光の当たり方を考えて、すき間を多く希薄にしています。そのすき間という「ないものが見える仕掛け」を、自分は最も大事にしています。彫刻家として形を作っていますが、表現したいのは、形ではなく形の周辺にある人の存在感や気配なのです。
渡 赤城のイベントでは真神は神聖なオオカミに見えました。神社に現れた神の使いのようでした。ところが、イベントが終わって参道に運んだら、犬みたいに愛らしい動物になっていた。光や空間によって、作品が変化しました。西島さんが作品に「お疲れ様」と声かけていたのが印象的でした。
— 光にとって暗闇も重要です
西 香川県直島に現代美術家ジェームズ・タレルの建築作品があります。初めは何も見えない暗闇ですが、しばらくして目が慣れると少しずつ見え始める。でも、その光は最初から点灯していた。光の存在を改めて考えました。
渡 私も今年は子どもに向けて、光と暗さを体験させる「光の教室」というプログラムを行います。 暗いからこそ月明かりを明るいと感じるはずなのに、現代は明るさへの感覚が薄れている。善光寺にある真っ暗な回廊を巡った後、光のある表に出て「よし、こんなに明るいなら何でもやれる」というように明るさに希望を抱く機会も大事だと思います。
地球との共生
— ロバがいますね
渡 弊社では、6月に来たばかりのロバをCLO(Chief Love officer)ニコラと名付けて共に生活をしています。最近は地球や人間に取って必要な生態系のあり方を追求する中で、微生物をライフスタイルや建築デザインに取り入れたいと、新たな可能性を探っています。会社の隣りに作った公共空間「coco no mori」も、単なる緑地ではなく、多様な微生物や動物が住んで、生態系が循環する森になればいいと考えました。
それにロバは、人類と共生の歴史がある動物で、人間とインタラクティブ(意思疎通)できます。すでに、ニコラとも心が通じ合っていて、私たちの姿が見えないと「あれ、いないよ」と鳴くんです。隣りの緑地グリーンベースに遊びに来る子どもも可愛がってくれます。
— 西島さん、群馬の住み心地は?
西 ほぼ良いことしかありません。それまでは仕方なしに取り組んでいた仕事や物事もありましたが、群馬では自分が本当にしたいと思うことができている。誰かのためではなくて自分がしたいことをすれば、結果的に人のためになると考えています。
鳳凰をモチーフにした作品「吉祥kichi-shou」も生まれました。吉祥とは、良いことの前触れ。ふわっと舞い降りてきているようだけど、本当は元々そこにあるのです。移住を決意してからの「人との繋がりの広がり」から着想していて、群馬ならではの作品です。
渡 私も好きなことをしているかもしれません。最近は官民共創のプロジェクションマッピングや、前橋の広瀬川での光と火のアートイベントを行いました。「人を多く集める」とか「成功しなければ」とかではない。地球上で生きていく上での課題解決を考えます。つまり「どうしたら問いを立てられるのか、解決できるのか」という視点を大切にしています。アイディアや感覚が降ってきたときには思い切って行動を優先させると、次に繋がることが多いようです。それで西島さんとも出会えました。ぜひ、またご一緒しましょう。
西 こちらこそ。ニコラと一緒に東吾妻に遊びに来てください。