群響の魅力を引き出して音楽を発信したい

群馬交響楽団 次期常任指揮者
飯森 範親さん

来年の4月から、群馬交響楽団(高崎市)常任指揮者に就任する飯森範親さん(59)。

東京交響楽団やモスクワ放送交響楽団など国内外の一流オーケストラで活躍し、山形交響楽団では、地域活性化に貢献。群響には20年以上前から客演してきたが、昨年5月の定期演奏会でマーラー5番の指揮をした際、楽員のモチベーションが高まる。今後、飯森マエストロは群響をどのように牽引するのか。

10月21日に、高崎芸術劇場で行われた就任発表会会見やインタビューから、就任の経緯や意気込みなどを再構成して紹介する。   (谷 桂)

高崎芸術劇場の舞台に立つ次期常任指揮者の飯森さん

繋がりのある場所
―常任指揮者を引き受けた気持ちは?
常任指揮者のお話をいただいた時に、「是非、ご一緒させていただきたい」と申し上げました。今までも山形交響楽団や広島交響楽団など数々の地域に根差すオーケストラと関わっています。オーケストラと信頼関係を作りながら、どうやったらニーズに応えて注目されるかを考えながら指揮をしてきました。群響は非常に優れたオーケストラですので、更にブラッシュアップしていければと思っております。

―群馬に繋がりがあるとか?
もう一つ、群響を引き受けた理由に、私の母方が群馬県出身だということがあります。祖父が前橋市、祖母が桐生市出身です。小さい頃、群馬に遊びにきて、林の中でカブトムシやクワガタをたくさん捕った記憶があります。繋がりある群馬県や高崎市、前橋市、桐生市、各市町村の皆様とこれから一緒に音楽を楽しめればうれしいです。「群馬県に自宅があったらいいなぁ」とも思い始めてきました。

一方で、関西出身の父方の祖父は、京都大学でチェロを弾いていました。大阪フィル総監督だった朝比奈隆先生と同期だったそうです。私が10歳の頃に祖父や父親が、アメリカの指揮者ユージン・オーマンディの「ボレロ」のレコードをかけてくれたのを聴いて「僕、指揮してみたい」と指揮者を目指す夢を持ったことがきっかけです。

モーツァルトを全定期に
―群響を向上させるにはどのように?
お話があった後、11人の楽員の方と率直な意見交換をして、必要なことを来シーズンのプログラムに取り入れました。

その一つが、「モーツァルトの作品を全ての定期演奏会に組み入れること」です。これまでの経験上、技術向上には一番手っ取り早い方法だと思っています。すぐに劇的な変化を感じることでしょう。

―どのように変化するのでしょう?
モーツァルトという古典を演奏することによって、オーケストラの音色に透明感が出て、音程にシビアになり格段に音楽が変わります。古典だけでなく、ロマン派や近現代作品の演奏にも生かされて、あらゆる音の基本になるはずです。コンサートマスターの伊藤文乃さんも「モーツァルトを弾きたいと思っていました。東京のオーケストラのような(洗練された)プログラムになった」と感じたようです。県内だけでなく、首都圏や全国からのお客様が、「来て良かった。魅力的な演奏だ」と感想を持っていただけるように取り組みます。

演奏会ごとに、指揮者やソリストは変わりますから、いろんなアプローチでそれぞれの「モーツァルト観」を出していただきたいんです。私も自身のアプローチでやってみたいと思います。

実は、私が生まれたばかりの0歳のとき、親に抱かれて上野の東京文化会館で渡邉暁雄先生指揮の日本フィルハーモニー交響楽団を聴いたらしいのですが、その人生初の1曲目がモーツァルトの「アイネクライネナハトムジーク」でした。モーツァルトとは縁があるようです。そんなこともあり、初心に返って取り組んでいきたいです。

透明な響きや澄んだ音を
―目指すオーケストラとは?
まず、聴いている人がとにかく心地いい音。それを表現できるオーケストラを目指したいのです。かつて巨匠サー・ロジャー・ノリントン指揮、ドイツのシュトゥットガルト放送交響楽団がやってのけたようにです。ロマンティックな曲でも、むやみにビブラートはかけずに、針の穴に糸を通すように音程を合わせると、オーケストラの音は、ものすごくふくよかな響きとなるのです。

他にも、群響のスターとなるような「楽員ソリスト」を皆様にご紹介出来たらと思っています。オーケストラには「顔」が必要です。メンバーから選ばれてソロをすることにより、一人の音楽家として力を発揮するチャンスが生まれます。

―来年のGWには、野外演奏会もあります
群馬の森(高崎市)で恒例の公演「森とオーケストラ」を指揮します。世界で注目される若手指揮者のグスターボ・ドゥダメルのロサンゼルス・フィルなども、壮大な野外公演を行っています。屋外の公演は、コロナのこともあり、マストだと思っているんです。

オーケストラは、「伝統の上にあぐらをかいていたら、絶対に続かない」。何ができるかを皆、必死に考えています。指揮者が率先して演奏することで県民の皆さんに群響を知っていただく機会になればいいですね。屋外ですと天候が心配ですが、私は強力な「晴れ男」なのできっと雨は降らないですよ(笑)。

―高崎芸術劇場という本拠地を得たことでメリットは?
群響のように恵まれたオーケストラはなかなか無いと思います。東京交響楽団は、JR川崎駅西口に「ミューザ川崎シンフォニーホール」を得て格段に音色が変わり、素晴らしくなった。群響も高崎芸術劇場で練習やリハーサル、本番を継続的にできることで素晴らしいオーケストラになると確信しています。

高崎芸術劇場のように響きが多いホールだと、演奏中にお互い聴き合うことは難しいかも知れませんが、他の人の音を意識して聴く習慣は大事なこと。良いホールでは、「倍音」も聴きやすい。「倍音」とは、例えばハ長調の「ド」の音を出すと、1オクターブ上の「ド」、さらにそのオクターブ上の「ド」の音が響いて聴こえることです。豊かな音色に、自然とモチベーションが湧いてきます。ここでは録音もできますし、色々な可能性が広がるのです。

―群響の目標は?
理事長である山本一太知事も群響を「宝」だと思ってくださっています。ありがたいことではありますが、もっと皆が「群響がないとダメだよね」という状況にしたいです。私の目標は、県民全員が群響の演奏を、「もっと聴いてみたい」と思わせる状況にすること。魅力的な音楽を発信することがミッションの一つだと思っています。皆さん、楽しみにしていてください。

会見に臨んだ群響の(写真左から)上野喜浩音楽主幹、飯森さん、コンサートマスターの伊藤文乃さん、藪原博専務理

いいもり・のりちか

1963年生まれ、桐朋学園大学指揮科卒業。ベルリン、ミュンヘンで研鑽を積む。94年から東京交響楽団の専属指揮者、モスクワ放送交響楽団特別客演指揮者、広島交響楽団正指揮者などを歴任。現在、パシフィック フィルハーモニア東京音楽監督、日本センチュリー交響楽団首席指揮者、山形交響楽団桂冠指揮者など。2023年4月より、群馬交響楽団常任指揮者に就任。
http://iimori-norichika.com/

飯森さんが指揮を執る群馬交響楽団定期演奏会
〇2023年1月21日 第584回定期演奏会  好評発売中
高崎芸術劇場 開演午後4時
マーラー交響曲 第1番 ニ長調「巨人」他

〇2023年4月22日 第587回定期演奏会(常任指揮者就任披露演奏会) チケット発売日23年2月1日
高崎芸術劇場 開演午後4時
モーツァルト 交響曲 第1番 変ホ長調 K.16
R.シュトラウス 交響詩《英雄の生涯》作品40
(ヴァイオリン・ソロ 群響コンサートマスター伊藤文乃)他
*料金はいずれもSS 6500円、S 5500円、A 5000円他
チケット専用電話: 027-322-4944
問い合わせ:群馬交響楽団( 027-322-4316 ) http://www.gunkyo.com/

掲載内容のコピーはできません。