サンポウ取締役会長・ロックハート城オーナー
平井 良明さん
今月開業30周年を迎え、テディベアミュージアムがリニューアルオープンした群馬県高山村のロックハート城。200年前に建設された英国スコットランドの古城を移築復元。これまで4千組以上の結婚式を行うほか、ドラマのロケ地としても登場するおしゃれで上質なテーマパークだ。石材業に始まったサンポウ(沼田市・平井秀明社長)の創業者でロックハート城オーナー、同社取締役会長の平井良明さん(76)に、石文化や完成までの道のり、多角展開した会社経営への思いなどを聞いた。 (谷 桂)
日本一小さくても、愛されるテーマパーク
―30周年を迎えたお気持ちはいかがですか?
情熱だけで移築したロックハート城が、30年を迎えられたのは、本当に皆様のおかげです。
開業した1993年頃は、バブルがはじけ景気が悪化していた頃でした。そんな中で、「日本一小さくても、愛されるテーマパークで行こう」という方針で、本物の石の文化を伝えたいと、何とかここまでやってきました。
―ヨーロッパで石文化に出会ったようですね
石が好きで、41歳頃から石の建造物を見つけて、海外を歩きました。イタリアやフランス、ドイツ、スペインなどを回って、石文化のすごさに、まさに「打ちのめされ」ました。西欧は、歴史や文化、伝統の厚さが違う。2000年以上前の古代ローマ時代の遺跡が残っていて、その上を歩いたり触れたり。感動なんてものではなく、放心状態に陥りました。
芸術家ミケランジェロが採石場にしていた真っ白な大理石の山にも行き、巨大な石の切り出しを見たときです。「今期は利益が出たとか、赤字だとかではなく、石屋として生きた足跡を残したい」と思ったんです。
津川さんから夢のリレー
―どのような経緯で移築することに?
ロックハート城は、俳優の故・津川雅彦さん(1940~2018)が1988年頃に、スコットランドで 見つけたお城ですが、北海道でサンタのテーマパークを作ろうとして上手く行かず、解体したまま苫小牧の港に放置していました。
一方で、私も城を見つけていましたが、フランスで素敵な白いお城を見つけ、気に入って契約したんですが、なんと詐欺。そのことが、メディアを通して関西の経済人の耳に入り、「二人で会ってみれば」ということになったのです。91年暮れに津川邸に行くと、「平井さんにお任せします」という話になり、そこから夢のリレーが始まりました。
―建築の苦労もあったとか?
建設する場所も悩みました。経理部長の妻と夫婦で相談しながら、高山村の元村長だった方の土地を譲って頂き、現在の場所に決めたんです。30個のコンテナで600㌧4千個の石を、フェリーで北海道から茨城県鹿島港へ、そこからトラックで高山まで運びました。
石はナンバリングされていて、図面もありましたが、日本の建築基準法で許可になるように真ん中にコンクリートの躯体を造り、表と裏から石を積むことにしました。総事業費は、20億弱、工期は1年半、延べ1万5千人のスタッフと共に夢の工事を進めました。でも、ここは寒いんですよ。冬は職人の顔が南極越冬隊みたいになってね。吹雪の中でみんな一生懸命オープンの1993年4月6日の城の日を目指しました。
―完成後の使い道は、決まっていましたか?
「この城をどう活用する?」と社内で100回くらい会議をしましたね。当時は、お墓を作っているだけで、観光のノウハウが全くないんですよ。その中で、「入場料を取ったら」「お土産コーナーやレストランもあったらいい」というアイデアが徐々に出てきました。
面白いものですが、「そろばん勘定」でやった仕事は、たいてい失敗している。ロックハート城は採算を考えずに、無我夢中で作ったから良かったんでしょう。今の若い人も、夢中でできることを探したり、海外に出かけて良いものを吸収してほしいと感じますね。
石材業からブライダルへ
―城ができたときのお気持ちは?
夢が叶って、うれしかったですよね。オープン当日、自宅から向かうと、道が渋滞している。「こんなところでおかしいな」と見ると、ロックハート城に向かっている車でした。「やったー、つぶれないで済む」と喜びました。
他にもびっくりすることに遭遇しました。ロックハート卿の末裔の方が、「オーストリア・ハプスブルグ家の女帝マリア・テレジアから位を授かった直筆の勅許状」を持参してくれました。城に飾ってありますが、一番の宝物です。
ー事業が多角化しました
オープン後、若い人がここで結婚式を挙げたいというのです。それならと、城に宴会場を作りました。この時から「婚礼ビジネス」が始まったのです。石材業サンポウが、多角化経営をするきっかけになったのが、ロックハート城でした。城が多角化事業の核になり、軽井沢(長野)や台場(東京)の結婚式場も広がりました。現在では、婚礼の売上げが全体の約半分までになっています。
その後、婚礼から派生した「ドレス体験」や平日の集客を考えた「映画・ドラマのロケ」を誘致するビジネスが始まりました。
「ドレス体験」は、ブライダルドレスを活用しています。色やサイズの違うものが在庫を含め、約1000着以上もあり、お客様に喜んでいただいています。「映画やテレビのロケ」は、これまで約1200件以上に上りました。首都圏から近く、洋風な城が良かったのか、映画「相棒」や「仮面ライダー」などの撮影にも何度もご利用いただいています。津川さんも俳優として来ましたよ。
かつて、昭和の演歌歌手、三波春夫が「お客様は神様です」と決まり言葉を言っていましたが、何か媚を売っているようで嫌だったんです。でもね、振り返ると、私も「すべてお客様に教えてもらったこと」が元になっている。ブライダルにしても、ロケ地にしても、お客様からの要望にお応えしているうちに、自然発生的に生まれたものなのです。これからもそうありたいと思っております。
―30周年の式典も行われました
アンティークベアやアーティストのベアを展示した「テディベアミュージアム」をリニューアルオープンしました。当日は、津川さんの娘さんの真由子さんやお世話になった方がたくさん列席してくださいました。
変わらないものの中に、新しいものを取り入れる「不易流行」という言葉があります。経営者として人として、これからも変わるべきものと、変わってはいけないものをかみしめながら、未来に向かって取り組んでまいります。
■ロックハート城
高山村5583-1
℡:0279-63-2101
HP:https://lockheart.info/