知られざる福沢版画の世界を紹介

開館25周年記念「躍動する線と色彩 福沢一郎の版画の世界」

福沢一郎《卑弥呼》年代不明 リトグラフ・紙

当館は、富岡市出身の画家・福沢一郎(1898~1992年)の画業を顕彰する記念美術館を併設して1995年(平成7)に開館し、今年度開館25周年を迎えました。本展はこれを記念して、これまでまとまった形で紹介されることの少なかった福沢一郎の版画作品に光を当て、その全容を振り返ろうとするものです。

福沢一郎の作品というと、油彩やアクリル絵具による大画面のタブローを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。福沢の本領がそこにあったことは確かですが、一方で生涯におよそ150点に及ぶ版画作品を手掛けたことは、あまり知られていないようです。

本展では、1950年代から晩年までの版画作品を中心に約80点をご紹介していますが、そのボリュームと内容からは、もうひとつの福沢作品の世界と、知られざる「版画家」としての福沢の姿が浮かび上がってきます。

ギリシャ神話や闘牛、卑弥呼など、福沢の版画作品にはタブローと共通するテーマやモチーフが数多く見られます。一般的にタブローの複製として版画が作られることがありますが、福沢の場合、そのほとんどは単なる複製ではありません。同じテーマやモチーフを扱っていても、福沢はタブローと版画、それぞれの特長を生かした表現を試みています。

福沢一郎《蟹のよこばい》1963年 リトグラフ・紙

また、最初から最後まで作家自身が自らの手で仕上げるタブローに対し、版画では製版や刷りの工程で第三者の手が加わるため、仕上がった作品が作家にとって思いがけない表現や効果を持つ場合が少なくありません。生前「版画はあんまり好きじゃない」と語っていた福沢が、それでも多くの版画を制作した背景には、他者が介在することで生まれる版画の表現に可能性を見出していたからではないでしょうか。福沢は、「何を」「如何に」表すかという大きな目的のもと、タブローと版画という異なる手法の間を自由に往還することで、自らの表現を磨き上げていったのです。

当館の福沢展示室では、福沢のタブローも多数常設展示しています。版画とタブローを同時に鑑賞しながら、福沢作品の多彩な世界を楽しんでいただければ幸いです。

 

富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館 係長代理(学芸員)
肥留川 裕子さん

富岡市出身。群馬大学大学院教育学研究科修了。2010年から富岡市立美術博物館に勤務。常設展のほか企画展「郷土の作家展」「福沢一郎生誕120年展」「降矢なな絵本原画展」などを担当

■富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館(富岡市黒川351・1)■0274・62・6200■一般400円/大学・高校生200円/中学生以下無料■2月28日まで■午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)■月曜休館(休日の場合は翌日)■関連事業・学芸員によるギャラリートーク 2月13日午後2時から。※事前申し込み不要(先着10人)、参加無料(ただし観覧券が必要)■同時開催「収蔵品展 作品タイトルに注目!~鑑賞のヒント~」(常設展示室)/「福沢一郎 人間礼讃」(福沢展示室)※いずれも上記観覧料で観覧可能

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