生涯を創作に捧げたふたりの画家の歩みを展観

「 生誕110周年 松本忠義・豊田一男 2人展+ AOKIT/3D になった絵画世界/by 青木世一 」

豊田一男《招かざる客》

高崎市美術館では現在、ともに高崎を拠点に生涯を創作に捧げたふたりの画家、松本忠義と豊田一男の生誕110周年を記念する展覧会を開催しています。ふたりは13歳のとき、群馬県立高崎中学校(現・県立高崎高校)で同級生として出会います。ともに絵画が大好きだった彼らは、一緒に地元の展覧会に出品したり、連れだって東京に絵を見に行ったりしながら交友を深めていきます。

そんな2人に大きな影響を与えたのが、同じ中学の2年上級にいた山口薫の存在でした。後に戦後日本美術を牽引していくことになる山口は、この頃から際だった画才を示していたようです。高崎中学の絵画展で山口の作品群を目にした松本と豊田は、どれほど感銘を受けたかについてたびたび回想しています。同郷の3人は生涯にわたって強い絆で結ばれ、互いの個展で談笑する楽しげな写真が多く残っています。

豊田一男の最大のテーマは、戦争や環境破壊を繰り返す人類の愚かさです。2度の応召という戦争体験を持つ豊田は過酷な戦場の現実を踏まえながらも、メタファーをちりばめ、ときにはユーモアさえ漂わせながら絵画を構築します。

松本忠義《錬金通りにて》

一方、松本忠義は量と空間の追求、モチーフの実在感、動物たちのユーモラスな表情など、さまざまな課題に取り組んでいますが、1980年を境に急速にシュルレアリスティックな画風に移行していきます。生涯一画学生が口癖だった松本は、99歳で亡くなるまで学びと探求を続けたのでした。

今回の展覧会では、ふたりの生涯の制作を展観するとともに、よき先輩であった山口薫の作品も展示しています。また、二次元の絵画を三次元で「再現」する活動で知られる美術家・青木世一により、松本忠義の代表作《錬金通りにて》を実物大で立体再現しています。絵画の中に入り込むという新しい体験を、どうぞ皆様でお楽しみください。

高崎市美術館 学芸員
柴田 純江 さん

大阪外国語大学イタリア語科卒業、金沢大学大学院修了。1998年より高崎市美術館に勤務。専門は西洋美術史

高崎市美術館(同市八島町110・27)■23日まで■027・324・6125■一般500円、大高生300円 (中学生以下、65歳以上無料)■午前10時~午後6時 (金曜日のみ午後8時まで)■月曜休館■6月16日午後2時から、元県立近代美術館学芸員の染谷滋氏によるアート・レクチャー「松本忠義と豊田一男ー内なる世界と外への視線」

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