過去に思い巡らせ、未来へ繋がる新たな発見を得て

「写真でみる富岡のいま・むかし」

新型コロナウイルスの影響が各方面に広がる中、当館も当初予定していた企画展のほとんどが延期や中止を余儀なくされました。本展はそんな中急遽企画したもので、当館の収蔵資料から明治~昭和までの富岡市内の様子を捉えた写真47点を、現在の姿を交えて紹介しています。

緊急事態宣言が発令された4月以降、自由な外出もままならない状況が続いていますが、一方で普段気に留めないような身近な場所や風景に目を奪われたり、小さな発見をした方もいるのではないでしょうか。本展は、こうした状況だからこそ地元に目を向けることを狙いとして企画しました。

1908年(明治41)の上町通り

富岡のまちの歴史は、1612年(慶長17)に代官の中野七蔵の新田開発によって原型が作られたことに始まります。古くは南牧砥沢で産出される砥石の中継地として栄えますが、1872年(明治5)に大きな変化が起こります。皆さんご存じの富岡製糸場の設立です。明治期には、この他にも組合製糸の「甘楽社」や県内最古の私立銀行「富岡銀行」が創業、産業・経済活動が一層活発になりました。1908年(明治41)の上町通りを撮影した写真には、現在の国道254号線富岡バイパス沿線の古い家々や、現在では住宅などが立ち並ぶ町の東方面に広がる桑畑の様子など、日本の近代産業のけん引役を担ってきた富岡の、江戸時代の名残を感じさせる長閑な表情が捉えられています。

上州富岡駅付近から見た現在の市街地

明治期以降の富岡は、近隣町村との合併により徐々に規模を拡大し、各種インフラも整備されて近代的な発展を遂げたことが数々の写真からも読み取れます。その一方で、今では見られなくなった草競馬や歌舞伎などの娯楽、鏑川で行われていた鮎の梁漁、車と人で混雑する町中の商店街の様子など、当時の写真はかつての人々の暮らしの一端を生き生きと今に伝えています。

めまぐるしく移り変わる時代の中で、現在も富岡のまちの姿は変化し続けています。ともすれば目新しいものばかりに気を取られがちですが、時には歴史を振り返り、過去に思いを巡らせることで、未来へつながる新たな発見が生まれるのではないでしょうか。

 

富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館 学芸員
肥留川 裕子 さん

富岡市出身。群馬大学大学院教育学研究科修了。2010年から富岡市立美術博物館に勤務。常設展のほか企画展「郷土の作家展」「福沢一郎生誕120年展」(2018年)、「降矢なな絵本原画展」(2019年)、「アリスの時間旅行」(2019年)などを担当。

■富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館(富岡市黒川351・1)■0274・62・6200■一般210円/大学・高校生100円/中学生以下無料■8月30日まで■午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)■休館日:月曜日(8月10日(月祝)は開館)■同時開催「福沢一郎 語る絵/描く言葉」展 (※上記観覧料で入場可)■富岡の「いま」と「むかし」の写真を今月23日まで募集中。詳細は市HP参照

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