古来受け継がれてきた、草木染ならではの魅力

収蔵品展「草木染の美 夏から秋へ」

チョウジで染めた色「丁香」(正倉院薬物による染色の再現品)

江戸時代の終わり頃までは、人々は植物の葉や枝、樹皮、根などや、虫や貝といった自然界にあるものから色を取り出し、糸や布を染めてきました。こうした天然染料による染色は、現在では「草木染」と呼ばれています。高崎市染料植物園は、飛鳥・奈良時代から現代までの日本の染色文化史に沿って植物を見ることのできる珍しい植物園です。園内の染色工芸館では、歴史的な色彩を草木染で再現した布や、着物などの染織品を展示しています。

開催中の収蔵品展では、正倉院に伝えられる薬物から染めた色を再現した、桂心(けいしん)と丁香(ちょうこう)の反物を展示しています。染色は山崎青樹氏によるものです。

桂心はニッケイの樹皮を乾燥させたもので、生薬としては桂皮、香辛料としてはシナモンと呼ばれます。丁香はチョウジの花蕾を乾燥させたもので、生薬としての利用のほか、クローブという名で香辛料として用いられます。ニッケイやチョウジの芳香は染めた布や紙にも残るため、平安貴族たちはその香りを楽しんでいました。『源氏物語』や『枕草子』などの王朝文学の中にはこうした香染(こうぞめ)の装束や扇が登場します。

藍染の子供着物 濃淡により色の呼び名が異なる

近世以降の染織品では、藍染の子どもの着物を3点展示しています。藍染には防虫効果があると言われ、農作業には藍染の野良着を着るものでした。子どもサイズの野良着は、子どもも仕事を担ってきたことを想像させます。

藍染では染める回数や時間を変えることによって色の濃淡を作り出すことができ、濃淡により様々な呼び名があります。藍染の標準色を「藍色」というようになったのは江戸時代以降のことで、古くは「縹(はなだ)色」と呼ばれていました。そのほか、藍染の薄い色「浅葱色(あさぎいろ)」や、ごく淡い色「甕覗(かめのぞき)」に染められた子供の着物を紹介しています。

色彩とともに芳香や虫除けといった植物の特性を楽しめるのも、草木染ならではの魅力であり、古来受け継がれてきた利用法なのです。

 

高崎市染料植物園学芸員
杉本 あゆ子さん

金沢美術工芸大学芸術学専攻卒業。須坂版画美術館、高崎市美術館で学芸員として勤務。2017年より高崎市染料植物園に勤務。染色工芸館での展示を担当。

■高崎市染料植物園染色工芸館(高崎市寺尾町2302・11)■027・328・6808■9月27日まで■午前9~午後4時半(最終入館は同4時)■月曜休園(9月21日は開園、9月23日は休園)■入館料一般100円、大高生80円、65歳以上、中学生以下は無料
■特別講習会「草木染・丁子で染める」 9月27日。講師は山崎和樹さん。
※詳細は同園ホームページ http://www.city.takasaki.gunma.jp/docs/2017082200011/

掲載内容のコピーはできません。