水彩画ならではの瑞々しい色彩楽しんで

「生誕150年  大下藤次郎と水絵の系譜」

大下藤次郎《猪苗代》1907年水彩・紙 島根県立石見美術館蔵

「水絵」、すなわち水彩画は、明治時代に西欧から日本に紹介された技法です。水で溶いて描くことができ、安価で携帯に便利なため、今も私たちに身近な画材となってきました。

大下藤次郎(1870~1911年)は、近代日本におけるこの水彩画のパイオニアです。大下は東京の商家に生まれ、跡継ぎとしての役割と、画家を志すための修業の両立に苦労しながら、中丸精十郎、原田直次郎という明治を代表する2人の画家に絵を習います。

父の死後は画業に専念し、オーストラリアへの遠洋航海に出た後、水彩専門の画家としての活動をスタートさせました。そして、水彩画の技法書『水彩画之栞』を出版、するとこれが大ベストセラーとなり、明治後期の水彩画ブームを牽引しました。また、日本初の水彩画専門誌『みづゑ』を刊行。丸山晩霞らと日本水彩画会研究所を設立し、各地で講習会を開きます。水彩画の技法と魅力を多くの人に伝えた功績は、42歳で亡くなった後も多くの画家たちに影響を与え、高く評価されています

この展覧会では、大下藤次郎作品の収集で知られる島根県立石見美術館の所蔵品を核として、明治期を代表する水彩画家として活躍した大下藤次郎の生涯と画業を振り返ります。大下による技法の解説と実作例を交えて、水彩の技法を紹介するコーナーも展示のポイントのひとつです。

同時に、大下が自らの道を歩む過程で出会った画家たちや、お互いに影響を与え合い専門の水彩画家として活躍した三宅克己や丸山晩霞などの水彩画を愛する仲間たちの作品を多数ご紹介しています。現在、展示されているのは作品と資料をあわせておよそ220点。季節の移ろいを感じさせる、懐かしく美しい日本の風景と、水彩画ならではの瑞々しい色彩をお楽しみください。

なお大下は群馬県も訪れています。特に、当時ほとんど知られていなかった尾瀬を訪れて紀行文と水彩作品で紹介し、尾瀬の自然が一般に知られるきっかけとなりました。

群馬県立館林美術館 学芸員
伊藤 香織さん

県立歴史博物館、県立近代美術館を経て県立館林美術館学芸員。県立近代美術館では、「サラ・ベルナールの世界展」(2018年)、「くまのパディントン(TM)展」(2019年)などを担当

■館林美術館(館林市日向町2003)■0276・72・8188■12月13日まで■午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)■月曜休館■入館料一般830円、大高生410円。中学生以下、障害者手帳などをお持ちの方とその介護者1人は入場無料

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