異界を生む詩人マーサ・ナカムラ

特別企画展「変な話をしたい。―異界への招待― 第28回萩原朔太郎賞受賞者 マーサ・ナカムラ展」

展示会場風景

「(詩を書くことを)やめちゃったら、たぶん体調崩すかなって思います」
今回の萩原朔太郎賞受賞者展にあわせて行ったインタビューで、受賞者であるマーサ・ナカムラさん(1990年生まれ)はこのように言われました。

マーサ・ナカムラさんは現在、会社員をしながら詩人として活動されています。受賞作である『雨をよぶ灯台』は、彼女の第二詩集です。ちなみに第一詩集の『狸の匣』で、第23回中原中也賞(2018年)を受賞されています。

ここまで読んで驚かれた方が多いのではないでしょうか? そう、マーサ・ナカムラさんは、これまで刊行した2冊の詩集の両方とも受賞しているのです。しかも萩原朔太郎賞に至っては、最年少での受賞となり、このことも大きな話題となりました。

彼女が詩を書き始めたのは、大学3年生の時でした。それまで詩を書いたことはなく、大学の講義で選んだ詩の創作演習によって、詩の世界の扉を開くことになりました。大学を卒業し就職してから、本格的に詩人としての活動を始めました。卒業のころに恩師である詩人の蜂飼耳さんに言われた「(自分の詩が投稿誌に)載ると嬉しいわよ」という言葉が、頭のすみにずっと引っかかっていたことが、「現代詩手帖」という詩の専門雑誌に作品の投稿をはじめたきっかけのひとつだったそうです。

受賞作から作成した灯台

本展では、詩集だけではみえてこない「マーサ・ナカムラ」という人物について、インタビュー取材を通し、パーソナルな部分に迫りました。冒頭の言葉のように、詩を書くことは、彼女にとって必要不可欠なことである、ということ。本展を通して、マーサさんのこうした思いがみなさんに伝われば嬉しく思います。

また、展示会場内は受賞作である『雨をよぶ灯台』の世界を体現すべく、いたるところに仕掛けをしています。例えば、ドアスコープをのぞいてみたり、布をめくってみたり。会場内に設置された大きな灯台、そしてその灯台に照らされる詩篇「新世界」の文字たちを追いながら、マーサ・ナカムラの「異界」をぜひ〝体感〟しにいらしてください。

 

前橋文学館館 学芸員
松井 貴子 さん

渋川市出身。渋川女子高卒、沖縄県立芸大卒、明治大学大学院修了。19年より前橋文学館に勤務。「榎本了壱「線セーション」展―私が出会った表現者たちII」(2019年)、「ドラマチックな重鋼!! 髙荷義之原画展」(2019年)、「夢よ、氷の火ともなれ―佐藤惣之助生誕130年記念展」(2020年)などを担当

前橋文学館(前橋市千代田町3・12・10■027・235・8011■6月6日まで■午前9時~午後5時(入館は午後4時半まで)■水曜休館(休日の場合は翌日)■入館料一般400円、高校生以下無料■新型コロナウィルス感染予防対策のため、開館時間などは変更が生じる場合も。詳細は前橋文学館HPを参照

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