“触れて”ほしい詩集

前橋文学館特別企画展
「生きて在ることの静かな明るさ ―第29回萩原朔太郎賞受賞者岸田将幸展」

岸田さんの朗読が流れるビニールハウス

〝現代詩〟と聞くだけでなんだかとても難しいもののような気がしませんか? そんな方々にぜひ触れてほしい詩集が、第29回萩原朔太郎賞受賞作『風の領分』です。詩人・岸田将幸さんの6冊目の詩集で、赤ちゃんを包むおくるみをイメージしたという、柔らかなコットン素材の表紙が使われています。本展では、農業を営みながら言葉を紡ぐ岸田さんの、受賞までの歩みを関連資料と共に紹介しています。

現在、愛媛県でアスパラガス農家として暮らしている岸田さんは、学生時代に第一詩集を刊行。卒業後は新聞記者として働くかたわら、4冊の詩集を刊行します。2016年に記者を辞め、家族とともに帰郷。そこで書かれた詩集が『風の領分』です。

本展では、現代詩を「なんだか難しい」と感じている人にも楽しんでいただけるように、会場内に様々な工夫を施しました。たとえば、『風の領分』の巨大本やAR(巨大本に専用アプリをかざすと詩があらわれます)、見上げるように読んでもらう詩、ビニールハウスから流れて来る岸田さんの朗読など。

専用アプリをかざすとスマートフォンの画面に出現する詩

〝なにげなく出会う言葉に生涯励まされることがある〟と、当館の萩原館長が言います。これは当館が大切にしているポリシーのひとつです。どうか、難しいと避けてしまうのではなく気軽に言葉に触れてみませんか? 岸田さんの作品のなかで、個人的に好きな一節をご紹介します。

「生まれていない者がすべて生まれますように/その生まれる命をきみが健やかに育てますように/生まれていない者が生まれるまで安心して休んでいますように/きみへの願いがきみひとりに負担なきよう、きみラによって守られますように」

いまのあなたや、何年後かのあなたに、あなたの子どもや孫、ずっと未来のだれかの心に〝触れる〟言葉がそこにはあります。岸田さんが紡いだ詩の数々を、全身で〝触れ〟てみて下さい。

前橋文学館 学芸員
松井 貴子 さん

渋女高卒、沖縄県立芸大卒、明治大学大学院修了。19年より前橋文学館に勤務。「榎本了壱「線セーション」展―私が出会った表現者たちII」(2019年)、「ドラマチックな重鋼!! 髙荷義之原画展」(2019-20年)、「夢よ、氷の火ともなれ―佐藤惣之助生誕130年記念展」(2020年)などを担当「変な話をしたい。―異界への招待―第28回萩原朔太郎賞受賞者マーサ・ナカムラ展」(20-21年)を担当

■前橋文学館(前橋市千代田町3・12・10)■027・235・8011■5月8日まで■午前9時~午後5時(入館は午後4時半まで)■水曜休館(5月4日は開館し、5月6日は振替休館)■入館料一般400円、高校生以下無料■新型コロナウィルス感染拡大状況によって、開館や内容が変更となる場合があります。ご来館の際は事前に前橋文学館HPをご確認下さい

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