前橋商業高校 男子バレーボール部監督 小林 潤
選手の自主性を尊重する指導の原点は、自らの経験だ。
「中学、高校、大学時代は、指導者中心のガツガツやる部活ではありませんでした。高校の時の監督は、『自分たちで考えてやることが大事』という指導でした。それで自分も伸びたと思うし、考える力も付きました」
指導は、一人ひとりの性格に合わせる。「同じ指導をして全員が伸びるかといったらそうじゃない。『何が必要か』がわかれば彼らはそれをやるし、言うタイミングを変えれば、こちらが彼らの気持ちをつかむことができる。そういう方が、子どもたちが一番伸びると思うんです」
小林監督が、指導する上で大切にしていることがもう一つある。それは選手との間に「壁」を作らないこと。選手たちが壁を作らなければ、彼らの素の姿がわかるので、一人ひとりに合った指導がやりやすい。小林監督から選手たちに近寄って壁をなくすように努めている。ときには自分の思考レベルを下げてでも、選手たちに合わせて、彼らの素の姿が出るように気を配っている。選手たちに友人のように話しかけられても偉ぶったりはしない。「ただ、『時と場所を考えて言葉を選ばないとダメだぞ』」と伝えているだけだ。こうした指導ができるのは、「先に生まれただけ。皆より長く生きているから、これまで教わったことを教えているだけで、偉くもなんともない」と考えるからだ。
選手たちが、指導者の顔色をうかがわずに、伸び伸びとバレーボールに打ち込める環境づくりも欠かせない。精神的に安心できる環境の下で、自主性から考える力が養われ、それが試合にも生きる。
「1セットでタイムは2回しか取れないし、しかもそれぞれ30秒。指示なんか出せないです。戦術で、数パターン用意していても、それらがだめならそのチームはそこで終わり。試合をするのはコート上の選手たちなので、自ら状況を打開するようなやわらかい発想が必要なんです。やわらかい発想は、指導者が押さえつけないから出てくるんです。逆に、押さえつければ押さえつけるほど、やらせようとすればするほど、子どもたちの頭は固くなり、自分で考えなくなります。『高校生に自由にやらせたら、好き勝手にやってしまう』という意見もありますが、そこは指導者が手綱を引っ張ったり緩めたりしていけばいいと思っています」
高校世代でも選手の自主性を尊重する指導が注目され、前商バレーボール部のように結果を出しているチームも増えている。この指導法を取り入れるためには、まずは指導者の意識改革が必要だということを小林監督の姿を見て、思う (星野志保)