「式典では全員が金メダル。最後に行きつくところは人間愛だなと。 僕自身、人間が大好きなんだなと再認識できました」
東京オリンピック開会式&閉会式
東京パラリンピック閉会式 ヘアメイク担当
冨沢 ノボル さん
2021年夏、世界のアスリートが熱戦を繰り広げた東京五輪・パラリンピック。1年延長に無観客という環境下、大会はもちろん開閉会式も世界中から注目を集めた。東京五輪開会式&閉会式、パラリンピック閉会式でパフォーマーや出席者全てのヘアメイクを担当したヘアメーキャップアーティスト冨沢ノボルさん(桐生出身)に式典に込めた思いなどを聞いた。
ー大役を務めた感想は
アスリートの皆さんがベストパフォーマンスを発揮する舞台ですから、式典も華々しくて清々しいものにしたいと思い、また東京開催なので世界に「日本」を強く打ち出すことを意識しました。自分の人生の中でも最高の出来事でしたね。プレッシャーはすごくありましたが本当に感動しましたし、とても誇りに思っています。
ー当日どのような気持ちで臨みましたか
式典の共通コンセプト「Moving Forward」(前進)を踏まえ、コロナ禍で開催する意義を自分なりに考え抜いてから任務に当たりました。みんなが希望を持って未来に向かっていく、世界が一つに繋がっていく、そんなイメージを胸に、一人ひとりにヘアメイクを行いました。
ーヘアメイクをする上で心掛けたことは
演者とスタッフ、物すごい数の人が関わっていますから、全員とコミュニケーションを取り僕自身の式典への思いを丁寧に伝えました。信頼は一個一個積み上げていくしかありません。個々のヘアメイクはもちろん違いますが、晴れ舞台を盛り上げるという共通のミッションを遂行するため全体の調和を大切にしました。今、情報化社会ですが、やはり人間と人間、個性と個性が交わることで醸成される一体感、バーチャルではないすごさをメッセージとして打ち出せたのではないでしょうか。
〇心に残ったエピソードをお聞かせ下さい
演者の中には話せない人もいらっしゃいましたが、彼らは「もっとリップを赤くして欲しい」など、自らの要望をボディランゲージでダイレクトに、素直に伝えてくれました。それに応えると、表情がパッと明るくなるんです。ヘアメイクは外見勝負ですが、時にはそれを超越する、精神を彩る「心のメーキャップ」というか、人を一瞬にして変えられるミラクルな力を持っているのでしょう。改めてヘアメイクの可能性を感じましたね。
〇今回の仕事を通して得られたことは
今まで感じたことのない楽しさ、明るさ、興奮、勢い、そして感動を得られました。現場で色んなものを肌で吸収でき、凄く刺激になりましたね。式典では個性や多様性が大きなキーワードでしたが、老若男女や障害のある人など、あらゆる方のヘアメイクをする際、個々を尊重しながらも全てを一つにすることを心掛けました。ヘアメイクを通して、言語を超えたコミュニケーションが出来たと思っています。
〇今後、ヘアメイクを通して表現していきたいことは何でしょう
今回、強く感じたのはやっぱり「愛は勝つ!」ですね(笑)。スポーツは勝ち負けの世界ですが、式典では全員が金メダル。最後に行きつくところは人間愛だなと。僕自身、式典の仕事でヘアメイクはもちろん、人間が大好きなんだなと再確認できました。これからの仕事も、そこを大事にやっていきたいですね。