笹川裕昭のスポーツコラム
「レジェンド」の経験を若手に伝え、チームの勝利に
プロ野球独立リーグ・BCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスに所属する井野口祐介選手(38)が、2つの大記録を達成した。8月19日の信濃戦では、前人未到のリーグ1000安打を達成し、翌20日の福島戦では、リーグ最多本塁打記録を更新する152本目を放った。
井野口選手は「今年中に達成できてよかった。どちらもうれしい記録だが、特にホームランを意識した。これまで、ホームランを打つためにどうするかを考えてきたので達成感がある」と振り返った。
「独立リーグのレジェンド」とも評される井野口選手は、桐生市出身。桐生商業では、夏の甲子園にも出場。平成国際大を経て、2007年にBCリーグの富山に入団し、翌年にはペガサスに移籍した。途中、アメリカ独立リーグにチャレンジもしたが、再び群馬に戻り、長くチームとリーグの顔として活躍してきた。
一般的に、独立リーグの選手は、巨人や阪神といったNBP(日本プロ野球機構)に属するチーム入りを目指しており、在籍期間は短いので、独立リーグで16年目となる井野口選手のキャリアは異色だ。「今は、チームの勝利が優先事項として一番高い。どうやったらチームが勝てるか、強くなれるかを考える方が面白いんです」と話す。さらに、「自分の取り組みや姿勢を、若い選手たちが成長するヒントやきっかけにしてほしい」と熱心に語る。
若手選手と大きな違いを感じるのが「経験」。例えば、「どういう選手がNBPに行けるか、ドラフトに掛かるのはどのような選手か」について今まで経験した積み重ねを惜しみなく若手に伝えている。それにより、若手が成長できるように引っ張り、結果としてチームの勝利につなげようと取り組んでいる。
一方、自身の次なる目標は何かと聞くと「実はあまり個人としての先の目標は無くて…」と困った顔をする。「きょう、現役が終わりになっても後悔しないよう、目の前の1日、1試合、1打席に向き合いながらプレーしている。遅かれ早かれその時は来るから」と井野口選手は思いを口にする。
今シーズンのペガサスは、全日程を終了し、井野口選手の去就が気になるが、彼が見せてくれた偉大な記録や経験したことを伝え続ける姿勢は、リーグにも、チームにも、ファンにとっても、特別で貴重なものだ。