農業カメラマン網野文絵のKnow Life
初めてビニールハウスに伺った時、独自の栽培方法を試みていて驚いたのが、今回紹介する渋川のトマト生産者、長岡和代さん(49)です。
トマト一筋に栽培を研究している長岡さんが、約30年前には、声優を夢見て東京の有名プロダクションに入っていた就農前の驚き話をいたします!
子供時代の長岡さんは田舎独特の閉鎖空間で自らの気持ちを抑えることがあり、人間関係に悩んでいました。そんな時は、「キャンディキャンディ」「ベルサイユのばら」などのマンガやアニメが気持ちを明るくしてくれたと言います。「声を使って自分以外の何者かになれる…」と悩んでいる自分を解放してくれる職業と考えるようになりました。
高校を卒業し、晴れて上京。声優養成所へ約2年間、通いました。夢に向かいつつも、次第に配役やオーディションの結果に厳しい現実を突きつけられました。東京での生活が辛くなって、里帰りも多かったようです。当たり前にトマトを東京へ持って帰り、友人にお裾分けすると「ちゃんと香りのするトマトを久しぶりに食べた」と言われました。その時、〝当たり前に思っていたものは、東京にないのだ〟と気づいたのです。
それからは実家でトマト栽培を手伝いながら東京へ通っていましたが、自分で作ったトマトを喜んでもらえる幸せに気づき、声優ではなく農業に本腰を入れる決意をしました。そして農業の養成所「ぐんま農業フロントランナー養成塾」へ入ったのです!
これがきっかけで、今まで嫌だと思っていた地元の印象が変わりました。同志のような農家さんやお店のネットワークができたことで、父親から受け継いだ大玉トマトの市場出荷に加え、レストランや直売所に向けたカラフル中玉トマトやバジル栽培にも挑戦。人と人とが相対する仕事を通して、自分が必要とされる喜びも感じたと言います。
野菜ソムリエの資格勉強やトマト栽培法の改良が農業へのモチベーションをさらにアップすることになり、現在は渋川農業女子グループ「あぐりいぃな」の会長も行っています。
近頃はトマトを吊した麻紐を土へ戻す工夫も試みています。昔とは違い、行動力ととびきりの笑顔で、農業を通して自分の思いを表現して、夢を実現されていると感じました。