「こう見えて実は『女子』なんです…。」
今にもそんな台詞を口にしそうなこの埴輪は、1989(平成元)年度に実施された大泉町の発掘調査で、5世紀後半の帆立貝式古墳「古海松塚11号古墳(こかいまつづか)」から出土した女子埴輪です。県内において最も古い段階の人物埴輪であることから、県の重要文化財にも指定されています。
この埴輪は、基礎となる球形の粘土に平たくした粘土が貼り付けられ、顔面にはナデ調整(指などを使って表面を撫でて整える工程)、側頭部と頸部にはハケ調整(木の板などを使って表面をならす工程)が丁寧に施されています。この後の6世紀代に見られる精巧で写実的な人物埴輪に比べれば、どこかまだ制作に慣れていないような造りですが、それがかえって、この何とも言えない素朴な表情を造り出しているのかもしれません。
では、どうしてこの埴輪が「女子」と言えるのか。それは、おでこのあたりに線で小さく「櫛」が描かれているからなのです。おそらく頭部には古墳島田(古墳時代の女子埴輪に見られる髪形で、江戸時代の島田髷に似ていることからこう呼ばれる)が象られ、その髪を留めるために挿す櫛を表現したものと考えられています。この線は他の女子埴輪でも見られ、小さな表現ではありますが人物埴輪を鑑賞する際のポイントの一つです。
2018(平成30)年には、県文化振興課が実施した「群馬HANI‐1グランプリ」にエントリーしました。残念ながら上位入賞はできなかったものの、投票者から「ママの顔パックみたい」といったとてもユーモラスなコメントが寄せられるなど反響がありました。ちょっぴりミステリアスで興味深いこの埴輪に会いに、ぜひ大泉町文化むらまでお越しください。
■きてみて■
大泉町文化むら埋蔵文化財展示室
邑楽郡大泉町朝日5-24-1/0276-63-7733/午前9時~午後10時(見学は同9時まで)/無料/月曜休館(月曜が祝日の場合は開館し翌平日が休館)