多胡碑記念館 [国史跡「上野国多胡郡正倉跡」出土資料](Vol.25)

須恵器職人も作った 稲(税)保管庫の屋根瓦

「上野国多胡郡正倉跡」から出土した瓦(高崎市指定重要文化財)。正倉の屋根瓦が大量に発掘された

ユネスコ「世界の記憶」上野三碑の一つで、上毛かるたに「むかしを語る多胡の古碑」と詠まれた特別史跡「多胡碑」。その近くで、近年、重要な遺跡が発見されました。2016(平成28)年に発掘調査され、20年に国史跡に指定となった「上野国多胡郡正倉跡」(こうずけのくに たごぐんしょうそうあと)です。当館では、出土資料の一部を常設展示しています。

奈良時代の711(和銅4)年に多胡郡が置かれたことを記念し、建てられた多胡碑。その周辺には、かねてから郡役所の遺跡が眠っていると考えられてきました。発見された正倉とは、税として集めた稲を保管する倉庫で、古代の郡役所を構成する施設の一部です。これにより、考古学の観点からも多胡郡設置が裏付けられたことになります。

多胡郡正倉の特徴として、県内初の事例となる瓦葺の荘厳な倉の存在が挙げられます。遺跡からは、大量の屋根瓦が出土しました。これらを観察すると、巻き上げた粘土紐の痕や、同心円状の道具の痕が凹面に残るなど、須恵器の甕作りの技法が応用された瓦が多数みられるのです。

なぜ須恵器職人までも動員されたのか? その理由として、国分寺造営などの国家事業のため、瓦を増産する必要が生じ、瓦や須恵器の職人集団が再編成されたことが推測されています。このように、本遺跡の発見によって検討材料が増えたことで、私たちは多胡郡設置や多胡碑建立の背景にある新しい可能性を想像することができます。

高崎市教育委員会は、正倉跡を含む多胡碑周辺遺跡の調査を継続しています。今後の発見により、当館の展示が大きく変わることもあります。現在進行形の展示状況を、是非ご覧いただきたいと思います。来館をお待ちしております。

学芸員
岡村 友理香 さん

おかむら・ゆりか/1982年吉井町生まれ。群馬県立女子大学文学部国文学科卒。多胡碑記念館(臨時職員)、高崎市との合併を経て現職。

きてみて
多胡碑記念館/高崎市吉井町池1085/☎027-387-4928/月曜休館、ただし月曜日が祝日の場合はその翌日/上野三碑のユネスコ「世界の記憶」登録を記念し令和4年3月31日まで入館無料

掲載内容のコピーはできません。