絵本は子どもが出会う最初の文学であり芸術
次世代の環境づくりを、ご飯作りながら考えています
子育て中の母親らで作る「時をつむぐ会」(高崎市中居町)は、絵本や児童文学を通して「子どもたちの健やかな成長」と「地域文化の向上・発展」を目指し、様々な取り組みを行っている。来年1月には出版社「ブロンズ新社」と共に、26回目となる絵本原画展を開催。同会の代表理事を25年以上務める続木美和子さんに、原画展やこれまでの歩み、今後について聞いた。
原画と映像楽しんで
Q来年の原画展の内容は
26回目の絵本フェスティバルは、ブロンズ新社さんと一緒に1月18日から開催します。この出版社は、「新しい感覚で子どもの本を真面目に出版しているな」とずっと前から気になっていました。展覧会名は「ブロンズしょうかいしようかい」。亀山達矢さんと中川敦子さんのユニット「tupera tupera」の新作「ともだちしょうかいしようかい」を始め、7作家の約200点を展示しますが、今回初めて映像ルームも作りますのでお楽しみに。
Qどんな出版社ですか
社長の若月眞知子さんが、ものすごくバイタリティーある魅力的な人で、とことんこだわりある考え方で新しい本を世に送り出しています。例えば、tupera tuperaを始め、あべ弘士の「クマと少年」やヨシタケシンスケ、鈴木のりたけなどの絵本は、発想も見た目も斬新で味わい豊か。tuperaの亀山さんが、少し突飛なアイデアのしかけ絵本の構想を若月社長に相談しましたが、すぐ気に入ってくれたそうです。作家の考えを尊重し、商品化に対して柔軟な視点を生かす出版社だと感じました。
Q来年の原画展の見どころは
原画はもちろんですが、「描いている作家さんの人柄も伝えたい」とスタッフの皆で話しています。でも、一番は「ブロンズ新社」の熱意ある出版への取り組みを見てもらいたい。アイヌや動物に詳しい作家のあべ弘士さんの講演会や、若月社長と亀山さんのトーク、ブックディレクターの幅允孝さんや作家鈴木のりたけさん、ヨシタケシンスケさんのギャラリートーク、絵本「ビロードのうさぎ」の酒井駒子さんも来ますよ。
児童文学の魅力知って
Q最初の原画展について教えてください
83年に、高崎駅西口にあった「子どもの本の専門店・本の家」を初代オーナーから、脱サラした夫と一緒に引継ぎました。なかなか本が売れず、見かねた出版社の人が、「種まきをしないとね」と励ましてくれて。「大人にも児童文学の良さを知ってほしい」と勉強会を始めました。94年、その時の仲間と「時をつむぐ会」を結成し、第1回原画展「ガァグ・バートン・エッツ展」を開催しました。アメリカを代表する3人の女流作家の原画が借りられると分かり、「やりたいね」と心弾みました。企画料は350万円以上でしたが、500円のチケットを7千枚売れば何とかなると。勢いだけでしたが、情熱あるメンバーのおかげで入場者は1万人を超え、多くの人に喜んでもらえました。
Q特に思い出深い原画展は
「はらぺこあおむし」の作者エリック・カールを取り上げた第6回ですね。高崎市制100周年の年で、約2万人も来場してくれました。アメリカでエリックさんに「日本に来て下さい」と直談判しました。彼のお家に泊まったんですよ(笑)。
男性スタッフも活躍
Q自身の子育ては
結婚して北海道から夫の勤め先の群馬・高崎に来て、知り合いもいなかったけど、群馬の人はすごく親切でした。でも娘2人は双子だったから大変な上、絵本も売れずに貧乏のどん底(苦笑)。自宅は県営住宅の4階で、長女のあかりが小1の作文で、「本屋は絶対やらない。お母さんは毎日重い本を持って上がるのが大変」と。さらに、家事をする私に「女は損だね」と言う。さすがにまずいと思いました。それから約20年後。長女が、「お客さんは良い人ばかり。すごく良い店だから私が継ぐ」と。嬉しかったですね。「子どもが大学卒業したら北海道に帰ろう」と思っていましたが「やめられない」と現在まで頑張っています(笑)。
Q今後は何をやりたいですか
「芸術に触れ、自然と関わり、感動を共有することが大切」という思いで活動を続けて25年。最初は絵本好きや子育て中の女性、教育関係者で歩んできました。時代と共に、世代交代が進んでいます。主なスタッフは、20~60代の約30人ですが、原画展になると、県内外からのべ500人が関わってくれます。最近、20~30代の男性スタッフも増え、充実しています。絵本フェスに加え、14年からは観音山カッパピア跡地にドイツの遊具デザイナー、ケルナーさんのユニークな遊具を導入した「ケルナー広場」の管理運営も行っています。最近では、会議に来たメンバーに手作りご飯を作っていますよ。保育はもちろん、食の大切さや生活全般を考え、これからも群馬や高崎が良い環境になるように活動していきたいですね。
文/撮影・谷 桂