コロナ下の五輪開催に多くの人が不安を募らせ、専門家の懸念も強まっています。4日付朝刊18面「五輪 記者は考える」では、アスリートや大会組織委員会、医療関係者らに向き合う記者たちが、取材相手の発する小さな声を紹介しつつ、心情を吐露していました。
東京都庁を拠点に医療態勢や感染症対策を取材する記者は「コロナ対応の現場と大会準備の動きには、パラレルワールド(並行社会)のような隔絶を感じてきた」。大会組織委を追う記者は「取材は冷静に。そう心がけつつ、私自身、心の奥底で、開催への希望を捨てきれず揺れている」。
全国に先駆けて太田市がソフトボール女子豪州選手団を迎えたことで、政府与党や大会組織委は「中止の選択肢はない」「入国する選手のニュースが増えれば空気が変わる」と弾みをつけ、開催に突き進む構えのようです。
豪州の選手団をお世話する市職員や、滞在先のホテル従業員へのワクチンの優先接種を提案する清水聖義市長の姿勢には使命感も感じます。ただ、会見でのやりとりには耳を疑いました。「優先接種は市民の反発を招くのでは」との質問に、「そんなに罪悪だとは思わない。太田にはそんなみみっちい人はいない」とは。
今日も全国各地で多くの命がコロナ禍により失われています。ワクチン接種も五輪開催も命に直結する大問題だからこそ、多様な考え方、議論があってしかるべきです。妙な「上から目線」や同調圧力で「みみっちい」などと意見を封じられてはたまりません。
(朝日新聞社前橋総局長 本田 直人)