たたき上げ [菅義偉首相は12年ほど前、自民党選対副委員長として…]

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菅義偉首相は12年ほど前、自民党選対副委員長として堂々と「世襲禁止」を唱え、不人気な麻生政権を支えました。「小選挙区制は政党の選挙なんです。それを世襲にしたら出たい人が出られない。それって国民目線から見て変でしょ」。党三役でも閣僚でもないのに番記者を引き連れて街を歩き、辻立ち発言が大きく報じられました。

二世でも三世でもなく農家出身の集団就職組。横浜から無派閥で国政に出た「たたき上げ」……。官房長官だった頃には、秋田総局デスクとして選挙報道に携わり、郷里の人たちが持つ立志伝中の人への畏敬の念をひしひしと感じました。4人の混戦となった郷里の市長選の最大の争点は「誰が菅さんに一番近いか」。当選した共産系候補まで、高校の先輩という菅さんとの握手写真を選挙冊子にデカデカと据えていたのには驚きました。

その菅さんが「言葉なき政治家」と後ろ指をさされて退陣表明するや、自民党総裁選は告示前から電波ジャック状態です。各候補が「番宣」さながら朝のワイドショーから夜のニュースまで入れ替わり登場し、権力闘争はすっかり劇画化。総裁選後はご祝儀相場で衆院選へ……。コロナ禍であらゆる光景が一変したのに、相も変わらぬお約束の流れです。

さて、群馬の各選挙区を見渡せば、世襲候補のなんと多いことか。公職が既得権益として「家」に継承され、多様な人材の登場を妨げる光景をよしとする気風なのか。よほど「出たい人」がいない土地柄なのか。旅回りの身としては興味津々です。

(朝日新聞社前橋総局長 本田 直人)

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