新人記者の多くは、いきなり縁もゆかりもない地に放り出されます。右も左もわからぬ土地の方言に耳を慣らし、見知らぬ山海の幸に舌鼓を打ち、炎天下の真夏も風雪の真冬も足を棒にして人脈を広げます。
ようやくなじんだかな、そう感じる頃には転勤。取材先との健全な間合いを保つうえでも、旅回りは宿命です。駆け出し時代、祭りや伝統行事の取材先で、地元長老に背を押されながら汗を流す同世代に目をやるたび、ふと寂しさもよぎりました。「自分はずっと旅先の傍観者。地域に根を張る太い幹にはなれない」
かつての任地、飛驒地方(岐阜県北部)では、よそからの定住者を「旅の人」と呼びます。一代限りではなく、移住者が祖父母でも「旅の人」。「あの人は旅の人だから……(飛驒人の感覚とはちょっと違うんだよなぁ)」。そんなニュアンスに疎外感を覚える一方、語感には「記者は所詮、旅の人」と何かしっくりくる思いも。英語の「ジャーニー(旅)」と「ジャーナリスト」も語源は同じだし。
一つ所に長居できないからこそ一日一日を懸命に。各任地で体感した相違も踏まえて複眼、横串に。めざすは「読んでよかった」と喜ばれる深い記事――。旅回りの心構えです。
大好きな上州を離れ、東京に異動します。コロナ下で人に会えず、なかなか街も歩けず、我慢我慢の1年余。小欄にお寄せいただいた数多くのご意見や叱咤激励のお言葉が一番の宝物です。これからは家族同伴で温泉巡りや水くみ、野菜や肉の買い出しに頻繁に「帰省」しますね。
(朝日新聞社前橋総局長 本田 直人)