尾瀬の自然保護を考える会・解説ガイドの杉原勇逸さん(70)の案内のもと、尾瀬国立公園の西山(1898メートル)頂上を目指した雪山紀行。前回の日記で「雪山は静寂の世界」と書いたが、そんな雪山歩きの楽しみ方を杉原さんに教えてもらった。
まず教わったのが「冬芽」。葉が落ちた雪山の木々は一見寒々しく見えるが、杉原さんの目を通すと、春に向けて準備をしている瑞々しい息づかいの一端が見えてくる。枝の先をよく見てみると、どの木もぷっくりとした芽をつけている。これが冬芽だ。「冬芽を見れば、なんの木か分かる」と杉原さん。ナナカマドの冬芽はほんのり赤く、ブナは薄茶色。ノリウツギは「人相の悪いギャングみたいな顔」、ヤマウルシの冬芽の下には「お猿さんの赤ら顔」のような葉痕……、と杉原さんならではの見分け方を聞くのも楽しい。
雪原には動物たちの足跡が。変則的に続くのはテン、後ろ脚をそろえて跳びはねていくのはウサギ。2種類の足跡が交差する場所を見て、「ウサギとテンが時間差でスクランブルしたんだな」と杉原さん。真っ白な世界をかけまわる動物たちの躍動を感じた。
雪の斜面を歩いていると、丸い雪の塊がコロコロコロと、雪だるま式に大きくなって転がっていく。「雪まくり」と言うのだそうだ。あちこちに転がる雪まくりに、杉原さんと一緒に「がんばれー」と声援を送った。静かな静かな尾瀬の雪山には、そこかしこに生命の息吹があふれていた。
(朝日新聞社前橋総局長 宮嶋 加菜子)