鳥啼く春 [今年もすっかり新緑の季節となった…]

今年もすっかり新緑の季節となった。真夏日になったかと思えば、季節が冬に逆戻りしたかのような寒風に吹かれる日もあり、4月は朝着る服に悩むことから日々が始まり、あっという間に過ぎ去っていった。

春と言えば、出会いと別れの季節。職業柄異動での引っ越しはつきもので、この間、働き出してからの引っ越し回数を数えてみたら、ちょうど10回だった。荷造り、荷入れはだいぶ慣れたもので、荷物も断捨離を繰り返した結果、引っ越しにはそんなに手間取ることはなくなった。でも、その土地で出会った人たちや仲間、風景や食べ物と別れる寂しさに慣れることはない。

4年に一度の統一地方選挙がある年は、新聞社の春の大規模異動は選挙が終わった5月になるのが慣例だ。前橋総局からも小泉信一・編集委員が横浜総局へと異動になる。別れと出会いの季節になると、思い浮かぶのが松尾芭蕉の句だ。 ――行く春や鳥啼き魚の目は涙。

奥の細道への旅立ちの記念として詠んだこの句には、忘れられない学生時代の思い出がある。北京での留学生活を終え、帰国する日の朝、クラスメートたちが空港まで見送りに来てくれた。そのとき、スロバキア人のラドがカードに書いて手渡してくれたのが、この句だった。ローマ字で綴られた音の余韻が旅立ちの心にしみいった。

5月。寂しさとともに、新たな仲間を迎えてのスタートの季節だ。

新緑に囲まれキラキラ光る利根川
ラドとは今もSNSで連絡を取り合っている。先日改めて芭蕉の句を送ってもらった

(朝日新聞社前橋総局長 宮嶋 加菜子)

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