俳優の中谷美紀さんが演じる横浜の地方テレビ局のキャスターが、殺人事件に絡むスクープをモノにして報道番組で放送しようとしたところ、経営改革のため銀行からやってきた新社長が「お堅い報道番組など必要ない」とストップをかける。そしてスポンサーの付きやすいイベント番組の放送を命じる――。現在放送中のフジテレビのドラマ「ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~」の一場面です。対抗するキャスターは人事異動も突きつけられます。
ここ群馬でも現実的な騒動が起きています。群馬テレビの社長による過度な人事異動などが不当労働行為にあたるとして、群テレの労働組合が県労働委員会へ救済を申し立てた問題。社長が「スポンサーではない自治体や企業に取材にいく必要はない」「ニュースなんか流さなくていい」といった趣旨の発言をしたと労組は説明しています。
私は東日本大震災が起きた年、朝日新聞労組の委員長を務めました。メディアの労組は労働者の待遇改善という基本的な役割に加え、健全なジャーナリズムを守る使命があると、歴代の先輩から教わりました。群テレの労組が職場環境の改善に声を上げ、こうした報道の扱いに異議を唱えるのは、極めてまっとうな活動です。
筆頭株主の県のトップ山本一太知事や社長の出身母体の群馬銀行の頭取も懸念を示しました。この原稿を書いている14日昼現在では収束していません。ドラマでは「そういうもんだろ、会社ってのは」と及び腰だった報道制作局員の意識も変わり始めます。メディアを取り巻く経営環境の厳しさは理解しますが、地元放送局は県民にとって重要な存在。早期の解決が望まれます。
(朝日新聞前橋総局長 八木 正則)